太陽と月
□01.出会ったのは
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〜Penguin Side〜
敵は賞金首がいる海賊船だったが、そいつを押さえれば後は攻めいるのは簡単だった。
何人か負傷者が出たが、結果はうちの完全勝利だった。俺も多少、怪我をしたが、これくらいの傷はよくあることだ。
シャチ達と船に戻り、甲板に座っていると突然、後ろから
『ペッ、ペンギンさん!?』
名前を呼ばれ後ろを振り返ると、あの女がぎょっとしたような顔をして、俺を見ていた。いや、正確には怪我をしている右腕だったが。
すると何を思ったのかなぜか突然グルンと回れ右をし、反対方向へと走っていった。
「なんだぁ?ひなたのやつ」
その女の奇行にさすがにバカのシャチでさえ不思議そうに首を傾げている。
と、思ったら数十秒もしないうちに
ーーダダダダッ
音がした方を見ると、女が何やら抱えてこちらに走ってきた。
抱えてきた物は、救急箱で、それをバンと地面に置き、俺の目の前に座りこんできた。
『ペンギンさんっ!!大怪我してるじゃないですかっ!今から止血するのでじっとしてて下さいね!!』
いきなりまくし立てるようにそう言ったこいつは、救急箱を開けガーゼと包帯を取り出した。
「これくらいなんともない。気にするな」
『なんともなくないですよ!これはあたしからしたら大怪我ですし、今も血が溢れてるじゃないですか!!もっと自分を大切にして下さいよ!このすっとこどっこい!』
そう怒鳴る女に思わずぽかん、としてしまう。
そんな俺に構わず『じゃあ止血してきまからね』と言い、
出血している右腕のきず口をガーゼで少し直接強く押さえた後、テキパキと包帯を少しきつめに巻いていく姿は慣れを感じる。
「ひなた、お前慣れてんなー。すげぇ」
隣のシャチもそう思ったのか、感心したように言うと、
『うちの親が医者だったから、色々昔に教わってたんだ!だから止血くらいならできるかな』
話している間にもテキパキと包帯を巻いていき、あっという間に巻き終えた。
ふー、っと息をはき、
『これで一応は止血できていると思います!後はこの船に医者がいるならその人に任せましょうかね』
と、へラリとした笑顔を浮かべた女にひとまず礼を言おうと思ったら、
『‥‥‥へ、‥これ、血‥?』
少しの間、ピタリと動きを止め固まったかと思えば、突然我に返ったように血がついた自分の手をワナワナと見た後、さっと顔を青ざめ、
ーバタンッ
後ろに倒れて気絶してしまった。
「おい、大丈夫か?!」
「わー!またひなたが気絶したー!」
あれからしばらくし、医務室へと向かうと、ちょうど女が目を覚ましたみたいでキョロキョロと辺りを見渡していた。
『あのー、ペンギンさんがここまで運んでくれたんですかね?』
「あぁ。あそこに放置しておく訳にもいかないからな。」
『ああぁぁぁほんっとごめんなさい!気絶してしまって‥。怪我していたペンギンさんに運こんでもらうなんて‥!』
青ざめた顔でワタワタと慌てふためるその姿に、「そんなことは気にしなくていい」と言い思わず苦笑いする。
「ぶっ倒れるほど血が苦手なのに、どうしてあんな必死に俺の手当てをしたんだ?」
『あー、‥あの時はペンギンさんが大怪我してるのを目の当たりにして、とにかくなんとかしなきゃってそれしか頭になかったんです。
それでようやく出血が治まったと安心したら、大量の血が自分の手についてることに気づいて、びっくりして気を失ってしまったと、いうわけです‥』
「俺はお前を疑って監視してたやつだぞ?正直嫌われてると思っていたが」
だから、あんな必死になって俺の手当てを始めた時は正直驚いたし、同時に疑問にも思った。
『‥正直言うと、ペンギンさんは確かに怖いです!鬼教官みたいで』
そうキッパリ言う。
『‥でも嫌ってはいないです。
誰だって見ず知らずの人がいたらそりゃ警戒しますし。ペンギンさんが疑うのも他の皆を守るためでしょ?それに皆から好かれてるペンギンさんだからきっといい人なんだろうなって』
そう笑顔で言ったこいつの瞳はどこまでも真っ直ぐで。あぁこいつはバカ正直なやつなんだと。
「‥変わってるな、お前は」
『よ、よく言われます‥』
「そうか。この手当て、ちゃんと出来てるとキャプテンが言っていたぞ」
『え、ほんとですか。良かったです』
「あぁ、あの時は助かった。ありがとう、ひなた」
『‥!どういたしまして!』
名前を呼べばひなたは一瞬目を丸くした後、ゆるゆると頬を緩め嬉しそうに笑って頷いた。
人のために怒ったり笑ったり。
ビビりで変わっているやつだが純粋で根は優しい子なんだろう。
考えてみれば、何かを企めるような器用なタイプでもなかった。俺が今までこいつを疑っていたが、時間の無駄だったってことか。
蓋を開けたら、
ただのバカで優しいやつだった
(そういえば何で船長さんが手当てのこと分かるんですか?)
(あぁ、あの人は医者だからな)
(えっええええ、あれで医者ー!?)
(ああ、俺も知った時は驚いた)