蝶のようにふわりと
□3.
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雲一つない快晴の下で
メリー号は順調に航海を進めていた。
ーーーのだが、
「ん?雨か??」
空は快晴であるにも関わらず空から何かがパラパラと降ってきた。
最初は雨か、あられか、と思っていたが、次第に船にバンバンと当たり始め、不思議に思ったクルー達は空を見上げる。
そして、降ってきたものを見て、
それぞれ信じられないとばかりに驚く。
落ちてきたのは、メリー号の何倍もある"船"であった。
「「「えーーー!!!」」」
ーーーー
落ちた船の衝撃で大波が発生し、揺れたり、骸骨が落ちてきたり、そんな騒ぎがやっと治まり、一味はぐったりとしていた。
「なんで空から船が落ちてくんだぁ?」
「空には何にもねぇのにな」
何もないはずの空から船が落ちてきたことに疑問を抱くルフィやゾロ。
「空から船が落ちてくるなんて、全くグランドラインってのは、なんてところだ‥!」
一方で、ガタガタと震えて抱きしめ合うチョッパーとウソップ。
「それに、こんな騒動の中でも呑気に寝てるやつもいやがるし‥!」
信じられねぇとばかりの顔をするウソップが見上げる先にはマストで眠る名無しさんの姿。
「さっき起こそうとしたんだけどよ、今日はあいつ全然起きねェんだよな〜」
「ゾロでもさすがにそこまで寝ねぇのにな」
「おいそりゃどういう意味だ!」
「あっ!!」
そんな中、ナミが大声を挙げサンジがどうしたのか、と聞く。
「ログポースが壊れちゃった‥!上を向いて動かない…!」
ナミの持つログポースは確かに動いておらずクルーは驚くが、そんな中、ロビンが言う。
「違うわ…より強い磁力をもつ島によって新しいログにかきかえられたのよ‥!指針が上を向いてるなら、空島にログを奪われたという事…!」
「「空島!??」」
ロビンの言葉に驚いたような顔をするクルー達。
「浮いてんのか島が!?」
「あの船やガイコツはそこから落ちて来たのか‥!」
「だが空に島らしきモンは何も…」
驚くクルー達に対し、ロビンが説明を続ける。
「そうじゃないわ…。正確に言うと浮いているのは“海”」
「海がぁ!!?」
その言葉に、ルフィ、ウソップが興奮したように言う。
「うっひょー!空に海が浮いてて島があんだな!?よし、すぐ行こう!」
「おらー!野郎共!上に舵をとれー!!」
「「「面舵いっぱーい!!」」
空島というところに、すっかり行く気満々になってしまった2人は、落ちてきた船を探検し始める。
ルフィが満面の笑みで空島の地図があったと探検から戻ってきて、その地図を覗き込むクルー達。
「やったァ!空島はあったんだ!」
「夢の島!!」
そう喜ぶルフィ、チョッパー、ウソップに対し、ナミが冷静に突っ込む。
「騒ぎすぎよ。これはただの可能性にすぎないわ。世の中にはウソの地図なんていっぱいあるんだから!」
その言葉にガーンと暗い顔をし落ち込む三人に慌てて宥めるように言うナミ。
しかし空島への行き方がわからない事には身動きもとれない。そのためにはまず情報が必要だと思った一味は空から落ちてきて海底に沈んだ船をルフィ、ゾロ、サンジが探検しに行ったが情報は何も得られなかった。
しかし、マシュラという猿の風貌そっくりな大男の乗る船からロビンがエターナルポースを奪っていた。
とりあえず空島の情報は人に聞くのが1番だと、エターナルポースの示す島、ジャヤという島に行くことになった。
「よーし!ジャヤへ行くぞ!!」
「ジャヤってどんなとこなんだろうなあ?」
空島への第一歩ということで、はりきるルフィ達。
「島に行くんだったら名無しさん起こさないと」
「あー、そうだよな。次の島で降りたいって言ってたしな」
マストで寝ている名無しさんを起こそうとマストへと繋がる梯子に足をかけたウソップの腕を掴むルフィ。
「、なんだよルフィ?」
「名無しさん、起こすんだろ?なら俺が起こしに行く!」
「お、おう、そうか?じゃあ頼んだぞ」
ルフィは笑顔だったが、どこか有無を言わせないその雰囲気に戸惑いながらウソップは頷く。
ゴムゴムの能力を使い、いつものようにビヨーンと腕を伸ばしマストへと昇っていく。
マストは高いため、クルー達には名無しさんとルフィの頭くらいしか見えないが静かに見守るクルー達。
「ルフィのやつやけに静かだな‥」
「あァ、いつもならバカでけぇ声で名無しさんを起こしてんのにな」
ルフィの声が聞こえず首を傾げるクルー達。
少しして、帽子を押さえながら見張り台から飛び降りて戻ってきたルフィは顔を上げると、
「名無しさんのやつ、全く起きなかった!!」
それはそれは満面の笑みでそう言った。
「おいおいほんとに起こしたのか?」
「起こしたに決まってんだろ!でもピクリとも動かねぇんだよ。いやぁ残念だなァ、あいつにはジャヤで降りるのは諦めてもらおう」
にししとご機嫌なルフィの顔を見て、なんとなく悟るクルー達。「こいつ全く起こす気、なかったな」と。起こそうとしたのは本当だろうが小声かなんかで話しかけたのだろう。名無しさんを起こさないように。
こうなっては何言っても聞かないと分かっているクルー達はやれやれと首を振った。
「島が見えたぞ!」
「リゾートっぽくていいじゃねぇか」
と、はしゃいでいたルフィ達だったが、港に浮かぶ船はどれも海賊船ばかりな上に、
「助けてくれっ殺される!」
そんな物騒な言葉まで飛び交っている始末だ。一見、栄えた町のようだが、実際は物騒な武器を持った奴等が大勢おり、治安が悪いのが見て取れる。
ルフィとゾロが船から降りジャヤの町へと進んで行くが、あの2人がトラブルを起こさずに戻ってこられる訳がないとナミが2人に着いていった。
船に残ったクルー達はルフィ達が戻ってくるまでの間、それぞれが好きな事をしていた。
ウソップは武器の改造、チョッパーは薬剤の調合、サンジはキッチンで夕食の仕度。ロビンは知らない間に姿を消しておりジャヤへ降りたらしい。
『ふわぁぁぁ、よく寝たあ』
そんな中、爆睡していた名無しさんはようやく目を覚ました。彼女は異常なほど昼寝をしているがそれにはちゃんとした"理由"があるのだが、それは後に明かされることになる。
ふわふわとあくびを吐き出した名無しさん。ぐっすりとこんなに昼寝ができたのは久々だ。何しろこの船に乗ってからルフィに幾度となく邪魔されてきたから。しかも用事があるならまだしも起こした理由が''遊ぼう"だから困ったものだ。お前は小さい子どもか。といいつつも起きたら何だかんだ喜んで張り切って遊ぶ名無しさんも大抵子どもなのである。
立ち上がった名無しさんは
ぴょーんと、マストから飛び降りると、近くで薬剤を調合していたチョッパーが気づき声をかける。
「名無しさんおはよう!よく寝てたな!」
『あ、チョッパーおはよ!うん、なんか今日はルフィに昼寝の妨害されなかったから、よく寝れたよ〜。』
2人の話し声に気づいたウソップが走って名無しさん達に向かってきた。
「名無しさん、なんだお前もう起きちまったのか!」
『なんだいウソップくん、その言い方あたしに起きてほしくなかったように聞こえる』
「な、なに言ってんだよ!そ、そんな訳ねぇだろ!」
焦ったように慌てて違うと否定するウソップに冗談だよ、と笑う名無しさん。
『そういえば、ルフィは?‥‥‥っていうか、船、止まってない?』
麦わら帽子の彼を探そうと当たりを見渡した名無しさんはようやく船が止まっていることに気づく。
『えっ!!島じゃん!!島に着いてる!ねっウソップ気づいてた?』
「そっ、そうだな〜、俺は、はじめて知った〜」
柵に身を乗り出して島を見る名無しさんに対してどこか様子のおかしいウソップ。
ウソップはつい先ほどの事を思い出す。それは、ルフィ達ジャヤへと上陸しようとしていた時のこと。
「あ、そうだウソップ」
メリー号から降りる前にルフィは振り返ってウソップの名を呼んだ。
「名無しさんがもし起きても、俺が来るまで絶対船から降ろすなよ」
そう言ったルフィの顔と声にウソップは思わず固まる。振り返ったルフィの顔はいたって真顔で、その真顔がやけに恐ろしく感じたのだ。
お前いつもの無邪気さはどこにいったんだ。そう突っ込む余裕すらウソップにはなかった。
万が一名無しさんが船から降りてしまったら自分の身が危ういというか、とにかくやばい感じがした。
それを思い出した、ウソップ。とにかく名無しさんを船から降りるのを阻止しなければならない。
『もしかしてルフィ、島に降りたの?』
「え?あぁ、そうだぞ」
ウソップは答えた後、しまった、と後悔した。これではルフィが名無しさんに船から降りてほしくないがために、あえて名無しさんを起こさず黙って島に降りたと言っているようなものだ。
『それならあたしもついでに起こしてくれれば良かったのに』
「そ、それには深いわけが‥‥‥つって、へ?」
『なんでよりによって島に着いた時に限って起こさないのさ。いつもはどうでもいい事で起こすくせに。ほんと抜けてるよね〜ルフィって』
「‥‥‥」
ーーいや、抜けてるのはお前だよ!
そう突っ込みたい気持ちをグッと押さえる。とりあえず名無しさんがアホで良かった‥!
しかしそんな安堵も束の間、名無しさんが背を向け甲板から船内に入って行こうとしていた。それに気づいたウソップ。
「名無しさんちゃん、君ははどこに行こうとしてるのかな?」
『どこにって‥部屋にだけど?』
「なにしに部屋に行くのかな!?」
『いや、この島で降りるために身支度しなきゃと思って。まぁ、そんなにあたしの物ないからすぐ終わると思うけどね!』
「ってことは、やっぱりこの島で降りちゃうのね!!」
言葉遣いといい、ウソップの些かおかしい様子に怪訝な顔をする名無しさんだったが、あぁ、となんとなくその理由が思いついた名無しさんが笑顔を浮かべる。
『そっか、ウソップ、あたしがいなくなると思って寂しいのね。うん、あたしも結構寂しい。この船楽しかったし。』
「‥‥へ、あ、いやうん。そうか。なら別に今船から降りなくてもいいんじゃないか?」
『いやいやそういう訳には行かないよ〜長居すると情が移っちゃうっていうか別れたくなくなるし‥』
それまで笑顔だった名無しさんの顔が寂し気というかどこか悲し気になったが、それも一瞬の事でまたすぐ笑顔を浮かべた。
『ってことで、今までお世話になりました。』
ぺこりとお辞儀をして笑った名無しさんとは対称にウソップは青ざめる。
他のみんなにも挨拶しないと、と着々と船から降りる準備を進めようとする名無しさんに慌てるウソップ。
「名無しさん!島に降りる準備はまだ後ででいいんじゃないか?とりあえずルフィ達が戻ってくるの待ってようぜ!!つうかルフィが戻ってくるまで船から降りないで下さい!」
『なんでやけにそんな必死なの‥』
「ルフィが妙に怖ェからだよ!」
今度こそしまった。口が滑った。言った後激しく後悔するウソップ。おそるおそるルフィをみると、「なんでそこでルフィ?」と首を傾げていた名無しさんは、口を開く。
『‥ねぇもしかしてルフィがあたしを船から降ろすなって言ったの?』
「ギクっ」
やはりアホな名無しさんもさすがに気づいたらしい。そして、こんな事を言い始める。
『正直に言ってごらんウソップ。嘘ついたらその鼻へし折るよ』
名無しさんはにこにこと笑っているがその笑顔が逆に怖くて、ととも冗談に受け取れない。
「ひぃぃぃ!そ、そうです!ルフィから名無しさんを船から降ろすなって命令されました!だから決して俺は悪くない!!」
ルフィといい、名無しさんといい怖ェんだよ。俺を挟むな。頼むから。そんな事を思うウソップ。
『なるほど‥そう。ルフィたぶんあたしを船から降ろす気ないよね』
「名無しさんさん‥?あのー、というわけなので船から降りないで頂けるとありがたいと言いますか‥」
『いいよ、ルフィが来るまでとりあえず降りたりしないからそんな真っ青になんないでよ』
そんなにルフィ怖かったの?と言う名無しさんだが、大抵お前も怖いよ。そんな言葉は心の内にしまっておく。
とりあえずルフィが来るまでは名無しさんは船から降りないと分かったためほっとする。まぁルフィ達が戻ってきたらルフィに名無しさんは怒るだろうがそんな事知ったこっちゃない。俺は断じて悪くない。
『お腹すいちゃったから、サンジのとこ行ってこよーっと』
サンジにおやつをもらいにキッチンへ向かった名無しさんの後ろ姿を見て、ほっと安心したウソップであった。
『おいしー、ほんと上手だね料理』
「名無しさんちゃんに褒めてもらえるなら俺はいくらでも作るさぁ!」
サンジに作ってもらったホットケーキを美味しそうに食べていた名無しさん。
すると外でウソップやチョッパーの騒ぎ声が聞こえ、ルフィの声も聞こえてくる。ちょうど食べ終わった名無しさんはバンと勢いよく立ち上がる。
『サンジごちそうさま!おいしかった!』そう言い残し外へ向かう名無しさんは、ドアをバーンと開け大声を出す。
『ちょっとルフィ!あたしこの島で降り、‥‥‥』
この島で降りる!
と言うつもりだった名無しさんはルフィの姿を見て言葉を失う。
『ルフィ、それにゾロどうしたの‥その怪我』
「おー、名無しさん起きたのか。別にたいしたことねぇよ」
帰ってきたルフィとゾロは傷だらけでボロボロの状態だった。名無しさんはその様子を見て目を、まあるくする。
自分を船から降ろさせてと怒るつもりだったのにそんなボロボロの状態では怒るどころか、心配してしまうではないかと思う名無しさんであった。