太陽と月
□01.出会ったのは
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夜になり、
キャプテンからあの女を連れてくるように命令を受けていたため、女を連れて船長室の前まで来た。
見張りの当番だったシャチが言うには、突然、甲板辺りが光り気づいた時にはあの女が立っていたらしい。
突然現れた女の名はひなたと言うらしいが、次の島まで乗せてやるだけの仲間でもないやつだ。別段名前を呼ぶ必要はない。
「キャプテン、連れてきました」
「入れ」
キャプテンの言葉を受け、ドアを開けてソファに座るキャプテンの前まで進む。
「‥ペンギン、あいつはどうした?」
「‥は?」
ー後ろにいますよ。と、言葉を繋ぐことができなかった。
キャプテンの訝しむような言葉と視線に一瞬理解できなかったが、後ろを見て瞬時に理解した。
「‥さっきまでいたはずなんですけど、」
そう、先程まで俺の後ろに着いて来ていた彼女の姿がなかった。
ドアを開ける前までは確実にいたはずだ。もう一度戻りドアを開けると、
地面に這いつくばる女の姿があった
「‥‥‥なにをしている」
一瞬、あまりの衝撃に言葉が出なかったが、なんとか言葉を絞り出し問うと、女は顔をバッと上げてこう言った。
「なにって、地震ですよ!危ないですから伏せて下さい!!」
「ああ、それなら心配ない。なんせただ船が揺れただけだからな。地震ではない」
確かに船長室に入る時に、船が大きく揺れてはいたが、大方、波に押されたところだろう。おそらくその揺れをこいつは地震だと勘違いしていたらしい。
女は頭を抱えるようにして、地面に伏せていたが、俺の言葉におそるおそる顔を上げて、へへ、と気まずそうに笑うと、そろりと立ち上がった。‥本当になんなんだ、この女は。
「大丈夫そうだな。キャプテンが待っている。早く、部屋へ入れ」
『は、はぁい‥』
キャプテンの前まで促した。
「約束通り、次の島までは乗せてやる。それまでは食事も寝床も用意してやるから安心しろ」
『あ、ありがとうございます。あの、ちなみに次の島ってどれくらいで着くんですかね?』
「まだハッキリしてねぇが、少なくとも2、3週間はかかるな。せいぜい1ヶ月ってとこか。」
『いっ、いいち1ヶ月っっっ!!?』
大声を出して驚いたその顔は
「そんなに遠いの!?」といわんばかりの顔だ。
「安心しろ、へたな真似さえしなきゃ1ヶ月生き延られる」
『いやいやいや、そういう問題ではなくてですね!精神的に持つかなぁ、と』
「ああ、それなら大丈夫だろ。元々頭やられてるみたいだしな。」
『やられてるとはどういう意味でしょうかね!頭がおかしいってことですか!?』
「まあ、そっちだろうな。」
フン、と鼻で笑うキャプテンはおそらくこの女で遊んでいるのだろう。
「‥‥‥というか、そんな1ヶ月も魚って腐らないものなんですね。あたしもって1週間くらいだと思ってました。」
‥‥は?
突然魚の話を始めた女の意図がわからず、キャプテンの顔を見れば俺と同じなのか「は?」と眉をしかめている。
「‥‥待て、なんでそこで魚の話なんだ」
『え?だって1ヶ月ですよ?魚の心配しないんですか?腐ったら売り物にならないでしょ?』
「‥‥‥お前俺たちをなんだと思ってやがる?」
『なにって‥漁師さんですよね??』
なにをどう考えたら俺たちを漁師だという結論に至るんだ。
「‥‥‥なるほどな。てめぇは正真正銘のバカだな」
『え。なぜにいきなりバカ呼ばわりされてるんだろう、あたし。』
「いや、確かに旗かざして刀を持つ漁師だっているかもしれねしなぁ?」
『んっ?旗?刀‥』
キャプテンの言葉に、なにかおかしいと気づいたのか、ううんと悩む女は、しばらくすると一人納得したように頷いた。
『旗があったか見てないけど、うん。あの物騒な長い刀は魚をさばくための物だったのね。』
旗をかざして、かつ刀など武器を持っていれば普通は俺たちが海賊だとわかるはずだが、この女にはその思考回路がなかったらしい。
結局漁師だと思っているのだろう。
「‥あぁ、そうかもな。まさかこの刀が人を切るための物なんて思わねぇよな?」
漁師だと信じて疑わない女に、キャプテンはニヒルに笑ってそう言う。
『ま、まさかねぇ。やめてくださいよ、そんな冗談‥』
「冗談で終わればいいがな」
青ざめていく女と対象に口角が上がるキャプテン。絶対遊んでいるな。
キャプテンは、空き部屋とお風呂は自由に使えと説明し、女に船長室を出るように言った。
「まあ、とりあえず次の島まで乗せてやる。感謝しろよ」
『は、はい‥ありがとうございます。(やっと解放された‥)』
キャプテンの悪巧み
いつ海賊だと気づくか見ものだな。
(キャプテン、楽しそうですね)
(あの女はからかいがいがある)