KNIGHT DREAM
□第8夜 許されないもの
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〜零の小学校時代〜
頬にガーゼを張り付けた零は、一人の男の前を見下ろした。
「俺のせいで、目…ごめんなさい師匠……。
逃げろって言われたのにオレ戻ってきたりしたから…。」
“師匠”と呼ばれた男。
その顔には包帯やガーゼが巻いてあり、タレ目がちな片目だけが伸びた黒髪からのぞいていた。
「……ああ?
体張ってお前を守ったこと、後悔させる気か?
ったく。」
男は寝っ転がっているのをやめて起き上がり、しょぼくれている零の頭をわし、となでた。
何をされるかわかっていなかった零は小さな肩をすくめ、暫し男の様子をうかがう。
「そんなツラさせるために助けたんじゃねーんだよ。」
「師匠…どうしてヴァンパイアは人を傷つけてしまうんだろう。」
ポツリと零された質問。
だがそれは小さな零には難しい内容で。
男は零の問いに答える。
「本能に逆らえない哀れな生き物だからさ…。
だから俺たちはヤツらを狩る。
俺や『錐生家』のようなヴァンパイアハンターはそのための存在だ。
零、もうわかったな。
ヴァンパイアは敵にしかならない。」
ヴァンパイアだって全部が全部悪い奴なんかじゃない。
そう思っていた零だったが、この事件は彼を変えるのには十分だった。
〜現在〜
今、零の師匠はここにいる。
私の後ろに居る零を鋭く睨んで。
「…零、少し下がってて。」
私よりも大きい零を自分の背中へと隠し、私は男と対峙する。
それを見た男は目を細めて私を頭のてっぺんから水に浸かっている腹部まで視線を廻らせ、最後に肩の傷に止まらせた。
「お前が結里菜か…?」
「そうですけど何か?」
「…いや。」
名前が知られていることを一瞬だけ疑問に思ったが、ここに来る前に理事長に会っているのだから私の名前を知っていても何ら不思議ではない。
それに写真も見ただろうし。
何かしでかすんじゃないか。
そう直感的に感じた私は零を背に隠したまま男の出方をうかがう。
すると案の定、男は懐から小銃を取り出した。
私はそれに素早く反応し、クイーン・ローズを取り出す。
響く二つの銃声。
私はその発砲された弾が零に向けられていると知っていたので、こちらも発砲し、相殺させる。
ここまで私の腕がいいとは思っていなかったのだろう。
相殺したことに男が驚いている隙に、プールから上がり男の横へと移動し裏拳をくらわす。
―――が、それは受け止められた。
「へぇ、けっこうやるな…お前。」
「ありがとうございます、零のお師匠サマ。」
「ほぉ…。
…だが、男をなめるなよ…?」
嫌味でわざと様を付ければ口元に笑みを浮かべた男は私に掴みかかった。
貧血気味で、しかも深手を負っている私がそれをよけられる筈もなく。あっさりと胸倉を掴まれ、宙づりにされてしまう。
「やめてください師匠!」
「…ふん。」
零の制止に視線をちらりとだけ寄こし、鼻を鳴らした男。
私はその一瞬の隙を見逃さなかった。
渾身の力を込めて蹴りを放った。
しかし。
「…あ、」
「これが全力か?」
その蹴りは、たった一本の腕で防がれてしまった。
渾身の一撃だったのに。
この人を止めなければ零が傷つけられてしまうのに。
咄嗟にもう一撃繰り出そうとするも、胸倉を掴んでいる腕に易々とプールに放り投げられる。
「きゃ…!?」
その先には零がおり、飛んでくる私を咄嗟に受け止めてくれた。
ぶつかった衝撃が、傷に響く。
「結里菜…。」
「っ大丈夫…。」
痛む肩をも押さえずに、未だに男を睨みつける。
そんな私と男の間に、今まで傍にいた優姫が両腕を大きく広げて立ちはだかった。
「やめてください!」
「…もう一人の娘か。」
興味無さげに呟かれた言葉。
男は尚も銃口を零へと向け続ける。
「そこまでーっ!!
ホントこれだからヴァンパイアハンターは嫌いなんだよ!」
突如聞こえてきた聞きなれた声とともにバタバタと慌ただしい足音。
それに安堵した途端足の力が抜けてしまい、私はそのまま意識を手放した。