短夢
□土方十四郎/悲恋
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「おーい、マヨラー」
銀魂高校は只今昼休み中。土方とクラスが違う名無しさんは、たまにこうして彼のクラスへ足を運んでいた。
片手には可愛い小さな弁当箱。どうやら土方と昼飯を食べるようだ。
土方はボケッとしていたようで、はっと我に返ったのは名無しさんに話し掛けられてから数秒後の事だった。
「あ、名無しさん。来てたのかよ」
ドアに片手をつき、少し不機嫌そうに言う。
だが名無しさんは、少したりとも気にはせず言葉を続けた。
「うん。一緒にお昼食べようと思って」
「大丈夫?」と、首を傾げた。すると土方から予想外の言葉が出てくる。
「悪ぃ。俺ミツバと食うわ」
ミツバ_
それは彼、土方が想いを寄せている沖田総悟の姉だ。清楚で気品があり、美人な女性。女の子が憧れてやまない存在である。
そう、土方がボケッとしていたのはミツバを見つめていたからだ。それだけ土方は彼女に夢中なのである。
「……そう……」
そう言っている時もだ。
ほら、またミツバさんのこと見てる。私なんて恋愛対象どころか女の子としても見てないんでしょ。
そんな名無しさんから出た言葉は。
「私の方が……すき、だよ……」
「……え? 今なんか言ったか?」
そっか……。
夢中過ぎて私の言葉も聞こえないんだ。
そんな名無しさんから出たのは、涙でも弱音でもなく。
「……いや……頑張れ!」
彼の背中を押す、励ましの言葉だった。