collar

□可笑しなと奇跡の遭遇.1
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ピリリリリ、ピリリリリ、
突然、ズボンにいれていた携帯が鳴った
皆と一緒になって食べ歩いていたアイスを一度口の中に入れて、携帯を開くと液晶には赤司征十郎と表示されている
『あ、あかしくんかられふ』そう言いながら通話ボタンを押した
受話器越しに聞く赤司君の声はいつもと変わらなかったけれど、その話の内容は頭を抱えたくなるような内容で

『テツ、赤司がなんだって?』そう聞いてきた青峰君に僕は
『僕の兄が赤司君に痴漢行為を働いたらしいです』と頭を押さえながら答えた






暗い夜道を全速力で走る
そうは言ってももともとスピードがあるわけではないから、後ろにいる青峰君と黄瀬君に今にも抜かされそうだ
僕としては、ほっといて欲しかったのだが二人は何か面白いことが起きているとあたりをつけたらしい
追い返すことも逃げ切ることも出来なさそうだ

『黒子っち、お兄さんいたんッスね』
『つーか、赤司に痴漢ってなんだよ。そこは巨乳の美人……ってあれか』

よほど夜目が利くらしい、青峰君が一方を見て立ち止まった
僕にはまだよく見えなかったのでそのまま、数歩駆け寄る
すると、薄暗い歩道で土下座している兄の後ろ姿と、その兄を立ち上がらせようとしゃがみ込んでいる赤司君が目に映った

その様子を見て、うわあ、と黄瀬君がどう表現すればいいか分からない声を出した
その声でこちらに気づいたらしい、赤司君が僕の顔を見て少しほっとしたような笑みを浮かべる
『黒子』
赤司君が僕の名前を呼んで手招く、それに頷いて兄のすぐ後ろまで近寄った

『すみません、赤司君。兄がご迷惑をおかけしました』
『いや、警察に行くときかなくて困ってたんだ。すぐに人違いをしてると分かったし、特に被害があるわけでも無いからな』
昔からそういう被害にあっていた兄は、自分がそいつらと同じ事をしたというのが許せないんだろう
いつもと変わらない様子でそう言ってくれた赤司君に心の中でお礼を言った

『タツヤさん』出来るだけ呆れた声で兄の名前を呼ぶ
兄は僕の声を聞くとびくっと体を縮こませ、そのまま僕の様子を窺うように見上げてくる

『よかったですね。赤司君、許してくれるそうですよ』
『……でも』
『警察に行っても、僕は迎えに行きませんよ』煮え切らない表情の兄にそう言えば、兄は泣きそうなほどに眉を下げたものの、別にいいし、とそっぽを向く
本当に頑固な人だ
でも僕は、この人の弱点を知っている

未だ、正座したままの兄の正面に立ち脇に両手を差し込んで力任せに持ち上げ目線を合わせる
気まずそうな兄の視線が揺れた
その様子に小さく笑い、僕より背の高い兄の頭に手を伸ばしポンポンと落ち着かせるように軽く叩いた
『だから言ってたでしょう。外ではやめてくださいって、うちは普通じゃないんですから』
『……うん。ごめん、思ってないとこでテツヤに会ったと浮かれちゃった』
『まぁ、僕じゃないんですけどね』
そう言うと兄はまた落ち込み唇を噛んだ

『その、赤司君だっけ?本当にごめんなさい』幾分か落ち着いたらしい兄が赤司君に向き直って言った
『こっちもやり返したから気にしないでくれ。もしかしたら明日、痣になるかも知れないが…』
赤司君はそう言いながら心配そうな表情で兄を見る

ふと、おかしいと思った
赤司君の浮かべるこの表情は違うんじゃないかとなんとなく思ったのだ
だって、不審者に抱き付かれれば誰だって抵抗する
いくらその不審者が知り合いの兄だったとしても、こんな風に心配するものだろうか?
この表情に心配以外の物が混ざっているんじゃないか?

ぐるぐる、ぐるぐるとそんなことを頭の中で考え、なんにせよ早く家に連れ帰ろうと言う考えに至った
『赤司君、今回は全面的に兄が悪いので気にしないでください。むしろいい薬です』そう言いながら兄と赤司君の間に入る
『テツヤはそんなに俺が嫌いか』
『いいえ、でも父さんとタツヤさんの奇抜な振る舞いには正直な所、迷惑してます』すっかり落ち込んだ兄に止めを刺してから赤司君を見やる

『すみません、赤司君。後日また謝らせますので、今日のところは家に連れて帰ってもいいですか?』
『あぁ、……いや、これ以上の謝罪は必要ない』僕の問いに赤司君はそう答えた






『わかりました。それじゃあ連れて帰ります』
一度、頭を下げ後ろに振り返るとすっかり忘れていた、青峰君と黄瀬君の姿が目に映った
ああ、何か言わなきゃと口を開こうとしたその時
アイスの棒を咥えたままの青峰君が『お、痴漢ってお前だったのか』と楽しそうに笑う

屈託のないその顔に僕は目を瞬かせた
いつの間に青峰君と兄は知り合っていたのだろう
しかも青峰君の表情を見る限り、兄との出会いはかなり友好的なものらしい
驚くことに兄の方も『あの時の』と笑った気配がした

人間嫌いの兄が家族以外の誰かに向ける笑み
喜ぶべきなのに、てばなしでは喜べない

どことなく面白くない気持ちで、いつ知り合ったんですかと聞こうと兄の方に顔を向けたら
『好きっス、付き合ってください!!!』と黄瀬君が兄に向かって叫んだ

その言葉と同時にピシリと無表情になった兄を見て、黄瀬君本当に空気読んでくださいと心の中で呟いた。

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