-White Snow-
□8.語れば、涙。
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「ちくさ?大丈夫…?」
ましろの心配そうな呼び掛けに千種はなんでもないと首を横に振る。
どうやら数分の間、無言で固まっていたらしい。
口数が少ないのは元々なのだがましろに対しては比較的話すようにしていたため、不安に思わせてしまったようだ。
「…本当に大丈夫。ましろが無事で良かった。」
「うん!心配かけてごめんなさい。」
「誰も心配なんかしてねーびょん。」
「犬が一番うるさかったよ。どこにいるんだって。」
「柿ピー!それは言わねぇって…」
「けんっ!やっぱり優しい!ありがとう!」
感激したましろは素早く犬に抱きついて嬉しそうに笑った。
その表情があまりにも可愛くて、犬の方はただひたすらに動揺して離せを連呼する。
口では言っても手を上げるようなことをしないのは、何か特別な想いがあるからで。
温かい触れ合いに慣れていないせいか強く反発してしまう。
それでも変わらず接してくるましろに、犬は心の片隅で実は小さく感謝している。
「そういえば…ましろ。記憶が無いって、聞いたけど…。」
「そうなの。一番最初はね、ましろの名前と景色だけしか覚えてなくて…。」
「今は何か、思い出せた…?」
「ちょっとずつだけど、楽しいことも悲しいことも。でも…」
急に言いづらそうにましろは俯いて、その暗い表情に千種は大丈夫と励ます。
さっきまで何かと反発していた犬も今は大人しく二人の会話を見守っていた。
「あのね、私…どうやって、みんなと初めて会ったのかな…?」
「あの時は…ましろは突然部屋に入ってきて叫んだ。」
「えっ…」
「ちょーうるさかったびょん。」
「何て、叫んでたの…?」
「…なんだっけ。」
「確か『一緒に遊べ!』とか生意気なこと言ってたような気がするびょん。」
犬と千種が過去の出会いを思い出しながら淡々と語る中、ましろはずっと苦笑していた。
まさか自分がそこまで大胆な登場と発言をしていたなんて信じられなかったから。
「ましろ…すっごく、目立ってた…?」
「うん。」
「ウゼーくらいに。」
「そっかぁ…。早く、思い出せないかな。」
「…知りたいなら教えるよ。ましろを助けるように、骸様にも言われてるし。」
「むくろが…?」
ましろは骸が気にかけていてくれたことに驚きながら、少しだけ考えて答えを出す。
今は少しでも早く記憶を取り戻して、また昔のようにみんなで笑いたい。
それともう一つ。
自分という存在は一体どういうものなのか、記憶を通して理解できそうなそんな気がするのだ。
「ちくさ!教えて!」
「…わかった。」
千種はましろに出来るだけわかりやすく出会った当時のことを話し出す。
時々、横から犬が口を挟みながら。
...