-White Snow-

□4.追憶と忘却。
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数えきれないほどの機械と、規則正しく動く心音。

たくさんの管に繋がれた状態で台の上に眠り続けるましろ。

今、隣で悲しげに笑う彼女が本物ではないのかと思ってしまう。

困惑する僕を落ち着けるように、ましろはぎゅっと抱き着いてきた。


どうしてこんなにも…


温かいと感じてしまうのだろう…


「むくろ。」

「…なんですか。」

「別れた最後の日にね、お父さんが私をここに連れて来たの。」

「………。」

「仕上げ、なんだって。でも終わるのにすごく時間がかかるんだって。」


ましろの身体から繋がる管の先…何かの液体が入った袋。

恐らく、あの中身が無くなるまで目覚めることもここから出ることもできない。


「それなら…今の、ましろは…?」


本体があれならば、目の前の彼女は…


「私にもわからない。気付いたら、ここにいたの。」

「そう…ですか…」

「あのね、むくろにお願い…したいの。」

「お願い?」

「私ね、時間が過ぎるとね、色々…思い出せないの。」

「それは、あの正体不明な液体の副作用か何かなんでしょうか。」

「わからない…。もしかしたら、むくろやみんなのことも…だから、」






私の代わりに…





覚えていて…





忘れたくなんて、ないよ…









「…必ず。必ず僕が覚えています。そしてまた、迎えに来ます。」

だから、と続けようとしてその言葉は止まってしまった。


初めて、


ましろが泣いていたから。


普段のような不安や寂しさ等からのものではない、感動の涙。

僕しか知らない…知ることのない、彼女の本当の姿。

いつの間にこんなに心動かされていたのか。

そっと頬に触れて、優しく指で涙を拭ってやる。


「…むくろに、会えて良かった…。」

「僕もですよ。」

「ごめんね…ありがとう…」


少しずつ薄くなっていくましろの身体。

精神体の具現化には本来、相当な負荷がかかるはず。

無意識にとはいえ、彼女には未知な力があったということになる。

この実験によるものなのか、元々の素質なのかは知らない。

ただ、次にまた現れることができるなら…


その時は…




「一緒に、空を見たいですね…」




僕は一人、完全に消えてしまった意識に話しかけた。



...
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