-White Snow-

□12.帰還→交代
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ましろはヴァリアーの屋敷に着くまでの間、思い出した記憶について考えていた。

バラバラだった記憶の中の時間軸も全て繋がって今は直ぐに何時のことかも説明できる。


幾つかは自然に、何かのきっかけ等で思い出したもの。

けれど、失った残り半分くらいは白蘭の好意で特殊な施術を受けて思い出したもの。


今の自分になら理解して受け止めきれる残酷な過去の記憶がそこにはあった。

一時期思い出しかけた、父と呼んでいた人の狂ってしまった姿。

幼かったましろは怖くて信じられなくて、自らその記憶を拒絶した。



「十年前の私が真実を知ったら…どう、なるのかな…」



怖いのは、利用されることよりも、自我が壊れてしまうこと。

悲しいのは、それを引き起こす可能性が高いことを知っていて、かつて父が繰返していたこと。



『誰も代わりにはなれない』



なのに諦められないのは、かけた情愛が大きかったせいなのか。

もう既に、ここには存在しない『ましろ』への切なる想い。

父の願いは叶わずに結局崩れさってしまったけれど。







「………ううん。」








私が、消してしまった。







「同じ過ちを重ねるお父さんは…見たくなかった。」







過ちである『私』も。









「新しい犠牲がこの世界では生まれないだけ、良しと思わないと…なのかな。」




『お前は不安定な不完全体なんだ…直ぐに壊れてしまう…』





ましろは父の最期の言葉を頭の中で何度も反復させて俯く。

自分は普通の人間よりも劣る、弱くて小さな一つの生命体。

ある日突然、意識を失って逝ってしまうこともなくはないらしい。

無理をしている今現在なら尚更に。

助かる方法も延命する方法も無い、常に死と隣り合わせの毎日。

最近になって、夜眠って朝起きるという何でもないことが奇跡の連続に感じるのだ。



「私…まだ逝けない。やることがあるから…」



太陽がすっかり沈んで暗くなった世界に、眩しい月明かりが降り注ぐ。

静かに空を彩る星は、ましろを導く一つの案内役。

散り散りに細かく別れていても行くべき方向を指し示してくれる。

次第に遠くに見えてきたヴァリアーの大きな屋敷。

期待の新人やいつもの個性的なメンバーの顔を思い浮かべながら、ゆっくりとバルコニーに降り立つ。

嵐の前の静けさとでも言うかのような恐ろしいくらいの静寂に、少しの心配を抱きながら談話室に入る。




「…ただいま〜っ!」




ましろが大きな声で叫んだ直後、後ろから異様な殺気が襲ってきた。



...
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