-White Snow-

□5.大切な音。
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混濁した意識の中、ましろは目覚めた。

見覚えのある天井と身体に繋がる無数の管。

暗く静かな部屋に聞こえるのは自分の心音のみ。

重い体を起こして辺りを見回した。


「誰も…いない…」


何年も前に、骸が壊滅させたのだからいるはずもない。

迎えに来るはずの彼も、復讐者に囚われたばかり。

こんなタイミングで仕上げが終わってしまうとはあまりにも酷い。

せめて綱吉たちに別れの一言でもかけてから醒めてほしかった。

ましろは嫌にハッキリする頭を回転させて、管を全部外して台から降りる。

視野が広がった気がするのは、少し成長した本来の体に戻ったから。

髪も背中の方まで伸びていた。


「みんなに、会いたいな…。」


呟いた声は闇に溶けて、かわりに響いていたのは心音を計る機械の単調な音。

どこへ向かえば人に会えるのかはわからない。

けれど、ここにいるつもりもない。

ましろは一度も振り返ることなく研究室を出ていった。







適当に歩いて街までたどり着くことができた。

人がたくさん行き交う中、ましろを見る目が増えていく。

色とりどりに着飾る人間に対して白だけの彼女に誰もが釘付けになる。


《あの子、可愛いな》


《綺麗なお姉ちゃんがいる〜!》


《一儲けできそうな面してるぜ》


そこかしこから聞こえる好奇の声。

相手にしている時間と余裕は無いので無視をするが、必ずと言っていいほど邪魔は存在する。

人気の無い道にさしかかった途端、悪巧みをしているような人間がぞろぞろと現れた。


「お嬢ちゃん、ちょっと一緒に来てくれないかなぁ?」

「見たところ金無いでしょ。君ならきっと高く売れるよ。」

「………。」


スーツ姿からするに、どこかのマフィアの人間だとましろは推測した。

人身売買や麻薬の密売、実験の素材収集…どれかをやっていそうな雰囲気を醸し出している。

誘いへの否定は簡単にできるが、多勢に無勢。

囲まれてしまって逃げることもできない。


不意に、腕を掴まれてビクリと体を震わせる。


「悪いようにはしないからさ、ね。」

「…っ……い、や!」

どこかへ連れて行かれそうになり、ましろが小さく悲鳴を上げた




瞬間……





...
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