幻実のかくれんぼ置き場

□ひとめぼれ
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それは桜の散る中で目にした一目惚れの少女漫画のようなものではないが、漫画のような気持ちだった。
ある春の日の体育祭の時に目に付いて、それから目を追うように自然となっていたようで、夏の半ばには二つ上の先輩の姿が、声が、仕草が気になって仕方がなくなっていた。
いつしかそれは小さな小さな行動になって、秘めた気持ちにただ悶えることしかできなかったのだ。頭に生える耳も、腰の下に生える尻尾も、思いすら隠して。

そんな中、夏も終わり秋に差し掛かる二学期から寮生活が始まることとなった。
冠学園高校に入学してから半年、慣れも見えてくる頃から寮生活が本格的にスタートし、自立を目指すという学園の方針だった。
その方針の中には寮生活の部屋は二人一部屋、先輩と後輩という多少の上下関係を築く名目もあった。

決め方こそ至って適当なくじ引きだが、森林水面(しんりんみなも)にとってはこの日から人生が変わったかのような錯覚すら覚えることになったのだ。


「45番…45番の先輩誰だろう…白狼と優は何番だった?」
「僕は67番、文芸部の部長さんと一緒だったよ。」
「39、確かバトミントン部の人だったかな。」
「水面はまだ見つかってないの?」
「うん…誰だろう…。」

番号の紙は後輩側は相手がわからず、先輩側は同じ番号の人の名前を知っていて迎えに来るという、学園内での恒例のちょっとしたイベントのようになっていた。
そんな中、先輩、野々村道(ののむらみち)ならばいいのにと思いつつ、そんな幸運が訪れてたまるものかと水面がきょろきょろとしていると、同じく同じ番号を探して居た道と目があった。
水面は慌てて目を逸らすと、道はすたすたと早足にこちらに向かってくる。

「ちょ、水面!先輩こっち来てる!」
「へ!?」

水面がもう一度そちらを見た時には自分よりも高い身長で影ができていて、少し上に視線を向けると憧れていたその顔が目の前にあった。

「水面…森林水面であってる?」
「そうですよ、こいつが水面。」

水面に向かって指を指して道が白狼に聞くと、白狼は表情を改め何もなかったかのように答える。再び道は水面を見て、腕を掴んで紙を見ると納得したかのように何も言わずそのまま引っ張った。

「わ、あ…」
「用事、ある?」
「い、いえ!無いです!」

早足の道に追いつくために水面は小走りになりながら白狼達の方へ振り向くと、白狼は手を振り優はにやにやと笑っていた。
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