しょうせつ

□山口
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そばかすが印象的な人だなと思った。

隣の席の山口くんはあまり口数の多いほうではないらしく、私ともほとんど会話を交わすことはなかった。だけど時々隣のクラスから遊びにくる水田くんとよく楽しそうに喋っているところを見ると根っからの無口、というわけではなさそうだ。へらっというか、ふにゃっというか、優しく笑う人だな、と隣で喋っている山口くんを横目にそう思った。


「○○ってさ、よく山口のこと見とるよな。…もしかして、惚れとるとか!?」

昼休み。友達と一緒に食べていたら急に友達がそんなことを言い出すからうっかり飲んでいたお茶を噴き出しそうになった。慌てて友達の口を抑えて辺りを見渡す。どうやら山口くんは食堂で食べているらしい。ホッと安堵の息を吐いて定位置に戻った。

「ちょ、ちょっと…!いきなり何言い出すのよ…!!」

「なになにそんなに慌ててー…もしかしてほんまに好もがもが」

「そそそそんなんじゃないってば!!ただ、隣の席だから仲良くしたいなーって思ってるだけ!」

「へぇー?そうなんやー?ふーん?」

ニヤニヤと笑う友人にイラッときて友達の弁当から苺をつまんで自分の口の中に放り込んだ。「私の苺!」と小さく嘆いている友人に心の中でざまあみろと悪態をついてやった。

「そんな恋するあなたにお得なお知らせです!」

「だからそんなんじゃないってば…!」

「山口のやっとる部活、知っとるやろ?」

「え?っと、確か、自転車競技部…」

「その自転車競技部ってな、学校の裏門抜けたとこの山を何っかいもグルグル周っとんねんでー!」

「ふ、ふーん?」

運よかったら会えるかもなー!と未だニヤニヤと笑っている友達を横目にもそもそとご飯を食べる。裏門、か…って、いやいや。別に興味なんてないし。別に放課後行こうかなーなんて

「思っ、て…なかったんだけどなあ…」

今起こったことをありのまま話すと気づいたら放課後になっていて気づいたら裏門を抜けた山の入口に立っていた。何を言っているかうんたらかんたら…
それにしてもすごい坂だなあ。山口くんたちいつもこの山を自転車で登ってるんだ。すごいなあ。
しばらくぼーっとしていたら向こう側から何か集団がこちらに向かっているのが見えた。道のど真ん中に立っていたら邪魔だと思いいそいで端っこのほうに寄る。だんだんと見えてくる集団のほうへ目を向けるとそれはどうも自転車のようだった。もしかしてあれが自転車競技部なんだろうか。だいぶハッキリ見えてきた。一番前を走っている大きい人のすぐ後ろに、山口くんがいるのが見えた。

「…やまぐ」

山口くん。という前にその集団は私の目の前を横切ってしまった。ブワア、と風が間近で感じる。え、今の、自転車?自転車競技ってあんなにアクティブな競技なんだ…!それに、

「(山口くん、すごい真剣な顔してた…)」

授業中や休憩時間中はいつも、眠そう…というよりほわんとしているのに。あんな顔も、するんだ。脳裏にさっきの真剣な顔をした山口くんが過ぎる。なんだか顔が熱くなって口元を手で押さえた。うわ、なんだこれ。これじゃまるで、本当に、好きになっちゃったみたいだ。少女漫画とかでよく普段と違う姿を見て恋心に気づく、みたいなのを見るけどまさか私がそうなってしまうなんて。


20140131

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