しょうせつ

□荒北
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私の彼氏の靖友は福富…福ちゃん厨だ。
ことあるごとに福ちゃん福ちゃん。デート中も福ちゃん福ちゃん。いっつも福ちゃんがー福ちゃんがーって言ってる。そんなに福富が好きなら福富の彼氏になっちゃえば……いやごめんなんでもない。うん。いやね、別に福富が嫌いなわけじゃないよ?むしろ友達としては好きなほう。だけど、だけどね?彼女とのデート中にずーーっと福ちゃんの話しかしないってどうよ?確かに会話の10割福ちゃんってわけじゃないんだけどほとんど8割ほど福ちゃんしか言わないって。どうなの?ねえ、どう思う?

「どうって俺に言われてもなぁー」

「だってこういう話できんの新開しかいないし」

福富にカミングアウトするのはなんとなくアレだし、東堂はバカだし、泉田も筋肉バカだし、真波も風バカだし。なんか箱学の自転車部ってバカばっかだな!

「ここは女相手し慣れてる新開さんがピッタリかなーっと思ってねー」

「し慣れてるってなんだよ」

「だってそうでしょ?で、どう思う?」

「うーん…靖友は口下手だからなぁ…寿一以外の会話が見つからないんじゃねえの?」

「なにそれすっごい悲しいんだけど…」

「まあ、ぶっちゃけ○○はさ、寿一に嫉妬、してんだろ?」

「え?…あー、うん。そうなるね。バキュンポーズやめて」

「○○は釣れないなあ…じゃあさ、いっぺん上目遣いで私を見て?みたいなことやってみればあいつも反省すると思うんだ」

「えぇー…私のキャラでそれやれっていうの?もし私があんたにやったら引くでしょ?」

「そりゃあもちろん!」

「このやろう!」

お礼にお腹に一発少し重めのやつを食らわせてやったら「いいパンチだ…ヒュウ!」とか言いながら机に項垂れた。新開の言うことは間違ってはいないと思う。靖友が口下手なのも、私が福富に嫉妬しているのも。上目遣いで私を見て?とか!私のキャラじゃない、けど…やる前に後悔するよりやって後悔しろって誰かが言ってた気がする。一度やってみようか。

「ッあ゛ー疲れたー腹減ったー」

「今日もお疲れ様ねー」

「ホントにそう思ってンなら肉まん奢ってくれてもいいんじゃなァい?」

「今金欠だからむーりー」

「チッ使えねェ」

「え?明日のドリンクにわさびいれて欲しいって?しょーがないなぁー」

「すいませんっしたァ!」

冗談だよと言ってカラカラ笑うと靖友は舌打ちをしながら顔を逸した。あ、会話止まった。これは福ちゃんトークがくるな。

「……そういえば今日福ちゃんがさァ」

ほらきた。ほーらきた。はいはい。今日福富が着替える時に制服のズボンと一緒にパンツも下ろしちゃってポロリした話はいいから。ていうかそれ私見てなくてほんっとよかったわ。気まずいどころの話じゃなかった。止まることのない福ちゃんトーク。今こそ決行の時だ。

「っ靖友!」

「で、福ちゃんが…どうしたのォワ!?」

靖友の服の裾をグイッと引っ張って上目遣い(ってこうやるのか?わかんない)をしてみる。お、動揺してる。

「い、いっつも福ちゃん福ちゃんばっかり!もっと私を見て!」

沈黙。恥ずかしくなって手を離して目をそらす。うっわあ恥ずかしい。死ぬほど恥ずかしい。やっぱやるんじゃなかったかな。今靖友がどんな顔してんのかわかんないけどとりあえずなんか喋ってよ。気まずいじゃない!

「……」

「…靖、」

「あ…あぁ…いや、その、悪…かったナ」

「…靖友?」

妙に歯切れの悪い靖友に疑問を持って振り返ってみると顔を真っ赤にさせた靖友がいた。「っ見んじゃねえヨ!」と言われて靖友は顔をフイッと向こうへ向けたけど耳が真っ赤のままだった。おや、おやおや?もしかして手応えありですか?

20140208

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