しょうせつ

□水田
1ページ/1ページ


※名前変換なし


「やーい、ふられんぼ」

「…っうるさい…ほっといてくれや」

フイ、と顔を背ける水田の横にゆっくり腰掛ける。なんやら1年生の時からずっと好きだった女の子に振られただとか。それが1時間前。未だ涙を目に溜めてこぼれないように必死に堪えてる水田を見るとよほど好きだったんだということがわかる。いい加減、泣きやめと慰めにきたのはいいけれど私は器用じゃないから。上手な慰めなんて知らなかったからつい憎まれ口を叩いてしまう。

「…石さんが心配してたよー早く泣きやめばーか」

「……わかっとる…もう少し、だけ…」

ポツポツと水田から出る言葉はかわいそうなくらい震えていて。振られた時の悲しさがまた込み上げて来たのか、肩を大きく震わせて顔を伏せてしまった。きっと水田の顔は今ぐしゅぐしゅになっているだろう。慰めついでに少しの同情を加えて真っ白なタオルを彼の方にポスンと置く。すると水田は小さくお礼を言ってそのタオルを自分の顔に押し付けた。しばらくゴシゴシと自分の顔にタオルを拭くとまた顔に押し付け肩を震わせた。あーあー。この泣き虫。

「これが最後、ってわけじゃないんだし、また次の人見つければいいんじゃない?」

そう言うと水田はキッと顔をあげ(ちょっとびっくりした)、そういう問題やない!とか俺は最後のつもりやったんや!とか言ってまたタオルに顔を押し付けた。怒らせちゃったなー。ごめんごめんと言いながら彼の頭をくしゃりと撫でるとビクッと肩をはね上げた。まるで小動物のようだ。普段は小動物のようにちっちゃくて泣き虫でどうしようもない奴なのに、自転車に乗ると人が変わったように格好よくなる。そんな水田が私は好きだった。好き、だったんだ。きっと彼にはこの気持ちは伝わらないし、伝えられないだろう。私はいつも水田のことを見てるけど水田は私のほうを見ることはないから。

「早くさ」

「……」

「見つかるといいね。次の人」

そう言って最後にクシャッと彼の頭を撫でると私は席を立ってじゃあね、と呟いて帰路へとつく。

「(報われないなあ。私も。)」

早く彼に次の人が見つかればいい。そうすれば私もいい加減忘れられるのに。私が彼を見なくなる日はいつになるのだろうか。


20140127

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ