しょうせつ
□杉元
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今日もキッツイ練習を終え、各自帰る準備をし始める。あーまた鳴子と今泉くん喧嘩始めちゃったよ…あんな練習のあとなのに元気だなぁ…ボクはもうヘトヘトだよ。喧嘩する二人とそれをなだめる小野田くんを横目にボクは一足先に部室を出た。あの人たちに構ってたら時間と体がいくつあっても足りないからね!ボクの愛車コルナゴちゃんを押して帰路へとつく。ああ寒いなあ…特に手が。どうして今日に限って手袋を忘れてしまったんだと少し後悔する。ハァと白い息を吐く。ふっと前を見ると誰かが前を歩いているのが見えた。暗くてよくは見えないけど、あの後ろ姿をボクは知っている。少し走って追いかける。だんだんとハッキリと見えてくるその背中にボクは小さく胸を高鳴らせた。
「○○ちゃん!」
名前を呼ぶと長い髪の毛を揺らせて振り向く。そしてボクを見るとぱあっと笑顔を浮かべる。そんな笑顔にまた胸がきゅうっとなった。
「てるくん!今まで部活だったの?お疲れ様。」
「うん。ありがとう。○○ちゃんはこんな時間まで何してたの?」
「ちょっと生徒会の仕事が長引いちゃってね。でも、てるくんに会えたからそれもよかったかなあ、なんてね。」
えへへと笑う○○ちゃんにボクの顔は先ほどの寒さを忘れるくらい熱くなった。
二人隣に並んで一緒に帰る。口数の少ないボクらだけど、そんな空気もちっとも嫌じゃなかった。しばらく歩いているとビューっと冷たい風が吹いた。体中が冷やされていくような感覚に襲われボクは少しでも寒さを和らげようと手に息を吐きかけた。
「あれ、てるくん手袋つけてないの?」
「え、あはは…今日はね。持ってくるの忘れちゃってさぁ」
「そうなの?じゃあ、かたっぽ貸したげる!」
「えっ!?そんな、悪いよ!○○ちゃんが冷えちゃうじゃないか!」
「いいよいいよ!自転車部って、手大事でしょ?」
「そ、そりゃそうだけどさ…」
「私のことは気にしなくていいから!ね?」
そう言うと○○ちゃんはボクの左手を掴み自分の左手にはめてた手袋をボクにつけた。○○ちゃんの体温でほどよく温まってた手袋はボクの手をあっためていく。
「わ、ありがとう…」
「うん。で、右手貸して?」
「え、あ、うん…」
○○ちゃんの手袋をはめた左手でコルナゴちゃんを持って、言われた通りに右手を出す。すると○○ちゃんは自分の左手でボクの手をキュッと握り指を絡める。
「えっあっ…!」
「こうすれば、あったかいでしょ?」
ね?と言ってニッコリと笑う○○ちゃんの顔は寒さからなのか、それともボクと同じ理由なのかはわからなかったけどとても赤く見えた。
少女漫画みたいな恋愛しようよ
20140126