リクエスト
□井原
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「もう、いいでしょう」
不意にそう言われ振り向くと自転車部のマネジの○○がいた。いつもニコニコしとるくせに、今日は口をへの字に曲げムスッとしていた。理由は、わからんでもない。
「な…何がや」
「惚けないでください。わかってるんでしょう?」
ズイッと近づく○○につい身が引けてしまう。ガツンと後ろに置かれているベンチに足をぶつける。そんな音も誰もいない部室には痛いほど響いた。
「もう1年も待ったんですよ?いい加減、返事くださいよ!」
「ぅ…せ、せやからまだや言うてるやろ!」
「どうしてですか!?まだ私の気持ちを疑っているんですか!本当に友矢先輩のこと大好きなのに!」
「ちゃうって!そういうことやない!」
「じゃあなんでですか!去年からずっと想いを伝えてきたのに!名前呼びだって、デートだってした!これ以上、何をしたらいいんですか!」
「もーちょい!もーちょい待てって!」
「もう、時間がないんですよ…」
先程まで威勢良く喋っていた○○が急に蚊の鳴くような声でそう呟くのでギョッとすると目尻に大きな涙を溜めギュッと自分の制服を掴み視線を下にさげていた。
「だって…先輩、もう卒業しちゃうじゃないですか…!」
「○○…?」
「私は、まだ1年あるけどっ…友矢先輩は…いなくなっちゃうじゃないです、か…!!」
そこまで言うと○○は顔も下にさげ今まで我慢していた涙をボロボロと流し始めた。○○は2年で、俺は3年。そのことはいくら何を言おうが変わらない事実だ。
「○○…」
「…い…なら…」
「え?」
「嫌い、なら…そう言ってくださいよ…」
「…は、」
「私のことが嫌いなら、そう言ってくださいよ…!私のことが嫌いだから…でも、友矢先輩は優しいからっ…今まで嫌々付き合ってくれてた…んでしょう…?」
「な…何言うとんねん○○、そんなわけないやろ…?」
「じゃあっ…どうして返事くれないんですかぁ…!!」
わんわんと本格的に泣き始めた○○に小さくため息を吐く。本当は、卒業して就職するまで言いたくなかったのだが、仕方ない。
「…あんな、俺、就職決まるまで返事はせんとこ思うとってん。高校生のままやったら、その、…責任とかよう持たれへん思うてたから…親御さんに、紹介する時にニート職やったらあかんやろ?」
少し照れ臭くて頭をボリボリかきながらそう言うと○○はようやく顔を上げてくれた。涙と鼻水でグショグショやったけど。
「と…もや先輩、それって…」
「な…んや」
「私のこと、そこまで…?」
「…っさい、言うなや…」
急に恥ずかしさがこみ上げてきてふいっと顔をそらす。瞬間お腹に走る衝撃と共に俺の体は後ろに倒れた。予想外のことで尻思いっきり打ち付けてもうたせいでめっちゃ痛かったわ。ぎゅうぎゅうと抱きついてくる○○はボロボロ涙を流しながらへらへらと笑っていた。ポンポンと頭を撫でてやるとさらにギュウッと腕を強めてきた。ちょっと、というかかなり苦しい。…あ、制服に鼻水ついた。まあ、ええか。
ここが部室だということを思い出すのは、石やんたちが入ってくる3秒後。
20140330
リクエストありがとうございました!