リクエスト

□井原
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先程同じクラスの井原くんに「話がある」と、お呼び出しを食らった。
私と井原くんは特別仲がいいというわけでもなく、だけど何の縁かはわからないがよく隣同士になったりしていたから時々写し逃したノートを見せてあげたり、冗談を言い合うなんて本当にごくわずか、そのくらいの接点だった。
井原くんは「じゃあ放課後体育館裏で待ってるわ!」と言うと教室を出て何処かへ行ってしまった。誰かにお呼び出しを食らうなんて経験今までなかったから私はひどく動揺してしまった。何か気に障るようなことをしてしまったのだろうか…いやでもそれならわざわざ放課後に体育館裏に行かなくても休み時間に教室で、とかでもいいんじゃないか。きっと教室じゃ言えないくらい大変なことをしてしまったんだろう。しかし思考回路をグルグルと巡らせるが、井原くんの嫌がるようなことをしたような記憶はサッパリである。一人でそんなことを云々考えていると友達から心配されてしまったので、何でもない、と言ってまあ放課後になれば分かることか、と思いその時は考えるのをやめた。

放課後、少し掃除が長引いてしまい走って体育館裏に行くと自転車競技部のジャージを来た井原くんが壁にもたれかかって待っていた。井原くん、と名前を呼ぶと井原くんはビクッと肩を跳ね上がらせ驚いた顔でこちらを向いた。驚かせてしまっただろうか。待たせた上に申し訳ないことをしたなと少し後悔。

「あの、待たせちゃってごめんね?掃除が長引いちゃって…部活あるんだよね?」

「いやっ全然待ってへんで!部活も、まだ始まってへんから大丈夫やし!」

「…ほんとに?なら、よかった。…ところで、話ってなに?」

すると井原くんはグッと言葉をつまらせ目をキョロキョロと泳がせ「あー、」とか「そのー、」と言葉を漏らす。やはり相当言いにくいことらしい。何かしてしまっただろうか、と朝のように考えていると「あんなっ!」と井原くんが大声を出すので一瞬にして現実に戻された。

「あ、んな…」

「うん」

「俺な、」

「うん」

「△△…の、ことな、」

「…うん」

「………す……き、やねん…」

「……へ?」

「……っせやから!△△のこと好きやぁ言うてんねんや!」

「…えっ」

2回も言わせんなやああぁ!と言いながら走り去る井原くんを静止した脳と体を無理やり動かし慌てて追いかける。こう見えて中学時代は陸上部だったので足には自信がある。少し走ったとこにある自転車競技部の部室の少し手前でなんとか追いつき井原くんの腕を掴む。井原くんは「なんで追いかけてくんねや…!」と言いながら少し乱れた息を整えていた。あなたが逃げるからですよ。ずっと前を向いているせいで顔は見えなかったが長い髪から少し見える耳が真っ赤だったことはわかった。

「あのっ…私、こういうのよくわからなくてっ…だから…その、メアド!交換しません…か?」

そういうと井原くんはやっとこちらを向いてくれた。そして先程よりも顔を赤くしてぶわあっと泣き出してしまった。ハンカチを渡してあげたかったけど、両手をガッチリと井原くんに握り締められているのでそれは許されなかった。自転車部の部室の近くで座り込んで私の手を握り締めた泣く彼と私の図ははたから見るとさぞかし異様な光景だろう。そんな光景を自転車部の人たちが扉の間から見ていたということに気づくまでそれほど時間はかからなかった。

20140315
リクエストありがとうございました!

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