しょうせつ

□水田
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今日もあまり長くない髪にワックスをつけて石さんと同じような髪型にする。うし、今日もバッチリや。石さんみたいにあんまにおうとらんのは、置いといて。(オレも石さんみたいにオールバックが似合う男になりたいわ)朝ごはんにと机の上に置かれているパンを一つ手に取って家を出た。今日も早うから朝練があるから、いそいで部室へ行かへんと。


「はよーす!」

「…ん、ノブくん。おはよ」

「あれ、まだ△△さんだけすか?」

「んーん。石やんも来てる、けど今、顧問の先生に呼び出されてる」

ふーん、と相随を打ってベンチの上にカバンを置いた。自転車部のマネージャーをしてくれとる△△さんは、正直苦手なタイプやった。のへーっとしていて、神出鬼没で、何考えているかわからないような、そんな人やった。(実際なんも考えてへんのかもしれへんけど。)会話が止まり沈黙が流れる。こういう空気は好きやない。はよ着替えて練習行こ…。自分のロッカーを開けてバッグを放り込んで着替えようとユニフォームを手に取ったところで、チラッと△△さんのほうを見てみると、バッチリと目ぇおうてもうた。え、なんかすごい見てる。すごい見られてるんやけど。

「…あのー…△△さん?」

「……」

「そんなに見られると、着替えにくいんスけど…」

「……」

無視すか!わけわからへん。ええわ、着替えよ。見られてる思うと少し小っ恥ずかしいけど。あ、言っとくけど別にそういう趣味があるとかそういう意味やないからな?仕方なくやからな。
自分の服に手をかけた途端、△△さんがガタンと立ち上がった。突然のことでビクッと肩が跳ね上がる。△△さんはオレの方へツカツカと歩いてくるとワックスでかためとるオレの髪の毛をくしゃっと崩した。

「ちょっ…△△さん!?何してくれますの!?やめてください!」

「……」

制止を入れるが△△さんはお構いなしに髪をぐしゃぐしゃと崩していく。ああもう、今日のは特に綺麗にできた思うてたのに!ほんまわっきゃわからへん!気づいたらいつもと同じ髪型に戻ってもうてた。またかためな、とか思うてたら今度はさっきとは違う、子供をなだめるようにポンポンと撫でてきた。

「なんっ…ほんまなんなんすか…!!」

「…ん、ノブくんは、こっちのほうが似合ってる」

「は、」

「私は、今のノブくんのほうが、好き」

「…は…んなっ!?」

コツン、とおでことおでこをぶつけて△△さんはふにゃっと笑った。△△さんこんな笑い方もできるんや…てか、顔、近っ…!顔がじわじわと赤くなってきとるのがわかって、なんとなく恥ずかしゅうなって目を逸した。△△さんは最後にクシャッと頭を撫でて「タオル、」と呟くと部室を出て行ってもうた。(多分、外に干してあったタオルのことやろう)一人残されたオレはズルズルとロッカーにもたれかかる。ああもう、ほんまに意味わからへん。なんでこんなこと、てか、好きって、なんやの。どういう意味やねん。ほんま△△さんはわけわからへん。全然顔から熱が冷めてくれへん。こんな顔、ヤマとかに見られたら絶対からかわれるわ。あー嫌や嫌や。明日からはもうワックスでかためんとこかなとか思うとる自分が心底キモいと思った。

20140219

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