しょうせつ

□石垣
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突然お腹に走り出す痛みに思わず洗いたてのタオルの入ったかごを地面に置きしゃがみこんでしまう。ああ、そういえばまだジャージに着替えてなかったんだった。制服…もういいや。ああもう、どうしてこうした痛みが毎月くるんだろう!早くタオルを部室に持っていきたいのだが、こうなってしまってはなかなか立ち上がれない。私は他の人と比べて痛みがキツいほうらしく、ズキズキと痛むお腹に息ができなくなってしまう。ああ、こんなプライベートなことで部活に支障がかかるのは出来るだけ避けてきたのに!いつもなら痛み止めを持ってきているところなのだが、今回はいつもより少し早めにきてしまって痛み止めはもちろんナプキンも持ってきていなかった始末だ。(ナプキンのほうは友達から借りれたからよかったけど)しばらくお腹を押さえてしゃがみこんでいたら、誰かが前から走ってくるのが見えた。

「△△!?どないしたん、こないなとこで座り込んで!制服汚れてまうで!」

「…い…石垣、先、輩…」

「お腹、痛いん?保健室行くか?」

石垣先輩は立てるか?と言いながら手を差し伸べてくれたが、私は首を小さく横に振った。そんな私の反応に石垣先輩はまた少し顔を青ざめた。

「ど、どないしょ…!あっ、おんぶ!したるわ!おんぶして、保健室まで連れてったる!」

「いっ…いえ、それじゃ、石、垣先輩…に迷惑が…というより…おんぶ、はだめです…!」

「な、なんでや…!?俺のことは気にせんでええで!?全然迷惑なんかやないから!…あっス、スカートも捲れへんようにするからな!」

「いえ…そういう問題、じゃないんです……その…血、血が…」

「血…?………あっ」

その意味がわかったのか、石垣先輩はボンッと音が鳴りそうなくらい顔を真っ赤にさせて「いやっその、気づかんくてごめんな!」とあたふたとする先輩を見て、少しかわいいと思ってしまった。しばらく目をキョロキョロとさせたあと「そ、そうや!」と声をあげて私と目線を合わせるようにしゃがみ、お腹を押さえている手の上に自分の手を重ね優しく撫で始めた。

「痛いの痛いの、飛んでけー!」

「……え」

「ど、どや?痛いのなくなった?」

手を上にあげたままそう石垣先輩は言った。い、痛いの痛いの飛んでけーて、なんて子供だましな。なんだかおかしさが急にこみ上げてきてつい吹き出してしまった。

「わ、笑うなや!俺めっちゃ恥ずかしいやん…!」

「ふっ、ふふふ…!す、すいません…!あ、でも笑ったらほんとに痛いのどっかいっちゃったみたいです」

「え、ほんまに!?」

よかったわぁー!と胸を撫で下ろす先輩にありがとうございましたとお礼を告げかごを持ち上げる。石垣先輩はそれ部室に置いたら保健室行くんやで!と最後にそう言って自転車を置いている場所まで戻っていった。ほんとに痛いのどっかいっちゃったみたい。石垣先輩ってすごい人なのかも。これ置いたら先輩のお告げ通り保健室に行って痛み止めをもらおう。ていうか、どうして部活行く前にそれが思いつかなかったんだろう。部室にタオルを置いて保健室に行こうとしたとき、「△△!」と後ろから声が聞こえた。振り向いてみると石垣先輩が片手に持っていた缶を私のほうへ軽く投げてきた。慌ててそれをキャッチする。

「体、冷やさんようにしいや!お大事に!」

そう言って石垣先輩は山の方へ自転車を走らせた。手の中にある缶がジワジワと手のひらに熱を持たせてくれた。…あ、おしるこだ。あったかいうちに飲んでしまいたいからこれ飲んでから保健室に行こうかな。ああ、後でお礼言わなきゃ。おしるこを開けて一口口に含む。口の中に熱と甘さがゆっくりと広がっていくのがわかった。

20140216

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