ぶっとばせ!
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濡れて色のかわった砂利を踏んで歩く。雨は、砂利が乾く暇を与えず降ってくる。
雨音のせいなのか、目の前の屋敷からは人の声は聞こえない。縁側から屋敷に上がって、襖に手をかける。
なかにはいると、一斉にこちらを向く目。
部屋の真ん中にはふとんが敷かれ、男が横たわっていた。
「兄ちゃん・・・」
俺の近くにいた子供はすがるように俺を見上げる。徐々に顔を歪め、目に涙をため始めた。
「兄ちゃん・・・父ちゃんが死んじゃった・・・!」
俺に引っ付いて泣きわめく子供を俺は黙って見ていた。
まだ幼い子供たちにとって例え人殺しであっても立派な父親だったんだ。
その親の死を目の当たりにしたこいつらにとってありきたりな慰めの言葉なんて、なんの意味もないことくらい理解していた。
「父ちゃんの仇をとってよ・・・!」
泣いている子供から伝染するように周りの子供もボロボロと涙を流す。その中で未だに俺にくっついている子供が嗚咽混じりにこぼす。
「・・・仇だなんて、滅多なこというものじゃありませんよ」
口をついて出てきた言葉。自分の口から出た言葉に、何を説教じみたことをいっているんだろうと内心自嘲する。
こいつらは強い。大切な者の死を受け止め、涙を流せるほどには。
一人の男の死を受け止めることのできなかった、数年前の俺と比べたら明らかに。
バカみたいに優しすぎた男がいた。その男の死に涙を流す前に、その原因を憎むことしか出来なかったおれが、
こいつらがその言葉を口にすることを咎めることができるのか。
「兄ちゃん?」
ぐずぐずと鼻をすする子供の頭にポンと手をのせると、その子供は不思議そうに見上げてくる。
「大丈夫ですよ。俺に任せてください。」
せめて、その手が汚れないように。
その目が憎しみに染まらないように。
咎めることはせず、『敵討ち』という行為の虚しさから守ってやろう。
子供を安心させるように笑って、屋敷を出る。
ふと、関わりなんてほとんどなかったただのガキにここまで気を遣う自分に笑えてきた。
記憶に残っている限りで初めて見る親しかった者の死体は、数年前の俺に確かなトラウマをのこした。
あの男の面影を追って無意識に真似ていた口調がその証拠だ。いつまでも心のどこかで男の死を引きずっている。もう思い出に変わったと思っていたのに。
口調を真似たら性格まで似てきてしまったらしい。
昔は赤の他人にこんな情を移すことなんてあっただろうか。
それでもあの男のように、敵にまで情けをかけるなんて性に合わない。
敵とみなしたやつは容赦なくフルボッコにする。それが俺の流儀と言うやつだ。