ぶっとばせ!
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俺は山崎退。
真選組の優秀な監察だ。
ある朝俺が屯所の廊下を歩いていると前方から血相変えた二番隊の鈴木がドタドタ走ってきた。今日も今日とて悪人面である。
「やややや山崎ィィィ!!」
目の前までやって来るといきなり胸ぐらを捕まれた。もとからのヤクザ顔を更にらしくした鈴木。
端から見たら完璧にカツアゲされてる絵面だ。朝からなにコレ泣きたい。
「李斗隊長にぃぃ!!」
「李斗君?」
どうやら話は李斗君に関してだったらしい。二番隊の李斗君に対しての過剰反応にはもう慣れた。
彼等は異常に李斗君に懐いている。いや、懐いているというか大好きなのだ。弟的な意味で。
「女が!!女が隊長に会いたいって!!門の所に!!」
「女?まだ李斗君寝てると思うけど・・・。まぁ鈴木落ち着けって。あの子もそういうお年頃なんだよ」
頭を抱えて唸る鈴木を宥めながら俺も内心はすごく叫びたい気分だ。あの李斗君にまさか女の来客があるとは。李斗君のあの外面の良さと容姿を考えれば今まで浮いた話が一つもなかったのがおかしかったんだが。
しかしまだそういう関係だと決まったわけではない。そう言い聞かせて落ち着こうとする。
心ではそう思っても体は既に動いていた。
向かうのは今だ爆睡中だろう李斗君の部屋。
「李斗くんんんんん!」
襖を勢いよく開けて叫んだ。だがしかし、この部屋の主は未だ布団に潜り、ピクリとも動かない。自分に被害があると感じるとすぐさま起きて戦闘体制に入るのにこういう時は中々起きない。
布団から紺色の頭だけをだしこちらに背を向けて眠る李斗君に近づいて顔をのぞきこむ。起きてしゃべってると生意気な似非紳士で時々命の危機に至るほど暴力的だが寝顔だけは可愛らしいものだ。
じゃなくて、なごんでる場合じゃなかった。一刻も早く起こさなければ。
「李斗君起きて!いつまで寝てんの」
体を揺らして声をかけるが反応はなにもない。仕方がない。デコピンでもしようか。
李斗君の顔が見える位置に回り込んで構える。
いつもやられっぱなしだし少し位いいよね。
そう思っていざやろうとした瞬間
ガシッ
「え。」
ドゴォォォォォン!!
俺は腕を掴まれ、投げられていた。
「あーよく寝たな〜。ん?山崎なにしてんの?」
「・・・自分に聞いて。」
入ってきた襖とは逆側の障子を突き破り、外に投げ飛ばされた俺。それを見て上半身だけ起こしわざとらしくのびをしてすっとぼける李斗君に軽く殺意が沸いてくる。
「で?こんな爽やかな俺の休日の朝を妨げてお前はなにがしたいんだ?」
下手なことを言ったら殺されるような雰囲気を醸し出しパキポキと指を鳴らす李斗君。
ていうかデコピンをしようとした気配で起きるとか最早チートなんですけど。デコピンすら気にくわなかったというのか。まぁこの人の戦闘能力の高さについてはもうなにも言うまい。
日常と変わらず暴力を受けたからか、(日常と割りきってしまう自分が悲しい)さっきまでの混乱が今は静まっていた。色々と手こずったがわざわざ身を呈してまで彼をお越しに来た理由を思い出す。
「李斗君にお客様だよ。」