ぶっとばせ!
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「銀髪の侍ってのは何者なんだよ!!」
昨日の決闘のことが早速隊士の間に広まり、朝の会議はいつも以上に暑苦しかった。
「会議中にやかましいんだよ。あの近藤さんが負けるわけねぇだろが。誰だくだらねぇ噂たれ流してんのは」
「沖田隊長が」
「李斗隊長が」
「スピーカーでふれ回ってたぜ!!」
一斉に俺と総悟に視線が集まる。
「「俺は土方さんにききやした(ききました)」」
「こいつにしゃべった俺がバカだった・・・ちょっとまて李斗には逆に俺が聞いただろ」
昨日あの橋で土方は野次馬に聞けばいいのにわざわざ俺を執念深く追ってきて、結局俺が説明した。ゴリラ回収は土方に任せたけど。
「でも実際総悟に話したのは土方さんじゃないですか。俺関係ないですよ」
俺の言葉に反撃しようとした土方の声は隊士たちの怒鳴り声に飲み込まれた。
「なんだよ結局あんたが火種じゃねぇか!!」
「偉そうな顔してふざけんじゃないわよ!!」
「ってことは何?マジなのあの噂?!」
「うるせェェェぁぁ!!」
土方が叫び机が吹っ飛ぶ。
かま口調が混ざっていたが気にしてはいけない。
「会議中に私語したやつぁ切腹だ。俺が介錯してやる山崎・・・お前からだ」
「えええ?!俺・・・何もしゃべってな・・・」
生贄は山崎だった。隊士は皆黙り込んで、山崎を見捨てる選択肢を選んだ。
「しゃべってんだろーが現在進行形で。それで次は李斗だから。首洗って待っとけ」
土方は完全に傍観していた俺にも刀を向けた。
「返り討ちにしてやりますよ。土方さんこそ首かっ斬って洗い流して待っててください。」
「それもう死んでんだろーがぁぁぁぁ!!」
土方が刀を振り上げたところで襖が開いた。
入ってきたのはさっきまで話題になっていた人
「ウィース。おおいつになく白熱した会議だな」
顔を腫らした近藤さんだ。
「近藤さんこれは会議じゃない。戦争ですよ。」
「がっはっは!!李斗は面白いなぁ!よーしじゃぁみんな今日も元気に市中見回りに行こうか」
「すごいですね。あのゴリラぶん殴っただけで一家断絶だなんて。面白そうだから止めませんけど。」
見回りのついでに隊士が貼った張り紙を剥がしていく。
「おもしろがるな。てかお前犯人知ってんじゃ「なんですって?斬る?!」おいいきなり原作入れてくんな」
「あぁ斬る」
「そして俺の台詞とるな李斗。」
「件の白髪の侍ですかぃ」
「・・・・・・うちの面子ってのもあるがあれ以来隊士どもが近藤さんの敵とるって殺気立ってる。でけーことになる前に俺で始末する。」
総悟のバケツがいっぱいになったから今度は俺の持ってるバケツに張り紙を入れ始める土方。
思った以上にたくさんあって驚きだ。うちの隊士暇なの?
「こんな張り紙してる時点で面子もクソもないんですけど」
「土方さんは二言目には斬るで困りまさぁ。古来暗殺で大事をなした人はいませんぜ」
「暗殺じゃねぇ堂々と行って斬ってくる」
「そこまでせんでも適当に白髪頭の侍見繕って連れかえりゃ隊士たちも納得しますぜ」
「これなんてどうですか」
銀髪のホームレスがちょうど通ったので引き止めて二人に見せる。
「おぉいいんじゃねぇかぃ。ほらちゃんと木刀もちな」
「じーさんその木刀でそいつ等の頭かち割ってくれ」
土方が納得してくれないので最終兵器を出そうとじいさんのビン底眼鏡をとった。
「パッと見さえないですが眼鏡とったらホラ」
「「武蔵じゃん」」
「何その無駄なかっこよさ!!」
結局土方は納得しなかったので武蔵に別れを告げ、総悟と二人で手を振ろうとしたが俺はその方向を見て手を止めた。
50メートルくらい前方にチャイナ服が見えた。俺と同じように晴天の下さした紫色の傘からオレンジ色の頭がのぞいた。
「どうしたんでぇ李斗?」
いきなり動きを止めた俺を不思議がってか総悟が聞いてくる。
数歩先を歩いていた土方も総悟の声に足を止めて振り返った。
「総悟、土方さん俺ちょっと用事が出来たんであとはお願いします。」
持っていたバケツを手ぶらの土方に押し付けて返事を待たずに紫色の傘を追った。
「ちょっとそこのチャイナさん!!」
声の届く範囲まで近づいて呼びかけた。
振り返ったチャイナはおれを見ると驚いたようで、目を丸くした。
「李斗!どうしたアルか?」
驚きつつも嬉しそうに笑うチャイナ。ついこの間までは会うのでさえ気が引けたのに、笑顔を見ただけでなぜか呼び止めてよかったなんて思ってしまった。
俺は、一つ呼吸をおいて切り出す。
「少し、話しませんか?」
「記憶喪失?!」
近くの公園のベンチに移動して全部、話した。記憶喪失の事も、それを思い出したくないってことも。
声をあげる神楽に頷く。
ちなみに呼び方と敬語については呼び止めたあと呼び捨て、タメ口を強請された。俺もその方がらくだからいいんだけど。
「そう、だから俺は昔のことは全く覚えてないんだ。だから、神楽の事も・・・・」
あの日から、記憶がないことを打ち明けると決めていた。こうして昔の俺を知っている人が現れた以上、逃げてはいられない。それにこいつとの記憶はそう悪いものではないんじゃないかって思ったんだ。
言うと決めたのに、やっぱり尻すぼみしてしまうのは突き放した時の神楽の顔を見てしまったからか。
「いいヨ!!李斗が私のこと覚えてなくても会えただけで嬉しいアル。」
気にしない、という神楽の笑顔がただの強がりであることは会って間もない俺でもわかった。いっそ、責め立ててくれたらいいのにと思ってしまうくらい、その笑顔をみているのが辛かった。