ぶっとばせ!

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「あれ?おめぇはミーハー少年か?」

後ろから声がして思わず振り向けば。そこには今日釈放したばかりの銀髪がたっていた。なぜか袖にタンポポが引っかかっているんだがあれは最先端のファッションか何かだろうか。

会いたくもないやつに呼び止められさらに不本意な呼び方をされ不快な気分になる。
そもそも俺は今隊服でもなければ傘をさしていて顔はすぐに分からないはずなのになぜばれた。さてはファンか。

「これはこれは。ホコリ頭さん今日振りですね。ところで誰がミーハー少年ですか。余程逮捕されたいみたいですね?」

「え、何これ爽やか笑顔の紳士口調なのに禍々しい空気が・・・」

お前に用はない早く消えろという念をこめて告げると銀髪のアホ面が引きつった。だが立ち去る気はないらしい。だるそうに片手を後頭部にもっていき口を開いた。

「はぁ・・・あのさぁ神楽のことなんだけど。」

話題にしてほしくなかった人物の名前を出されて思わず顔をしかめる。銀髪は気づいてないみたいだけど。

「アイツ、あれから様子がおかしいんだよ、何とかしてくんない?ていうかお宅ら何があったの?」

「俺だって知りませんよ、本人に聞けばいいんじゃないですか?つーか子どもの心配するのもいいですけどあのくらいの子どもはお父さん嫌いになる年頃だから程ほどにした方がいいですよ。」

あのチャイナが心配なのはいいけど俺に関わらないでほしい。

あのことは、すぐにでも忘れたいんだ。


「俺の子どもじゃねぇよ!!アイツはただの従業員!!」

「へーそうなんですかー。」

まだ脳裏に焼き付くチャイナの顔を振り払い、言った冗談に銀髪は本気で突っかかってくる。心底どうでもいいんだけど。

「おい、何その棒読み。・・・まぁそれ言いたかっただけだから。俺ぁもういくわ」


「はいはい、それじゃあさようならロリコン。」

「ロリコンじゃねぇぇぇ!!!」


























「あ、李斗君お帰り。気持ちの整理はついた?」

屯所に帰って縁側を歩いてたら庭にミントンをしてたらしい山崎がいた。開口早々に聞かれた言葉に「なんのこっちゃ」としらをきれば苦笑された。
確かにちょっと混乱してたのは事実で、図星だったからこそ腹が立った。地味なくせに。

「いくらなんでも女の子にあんないい方しちゃだめだよ。あの子、相当君に会いたかったみたいだから。」

俺が縁側に腰を下ろすと山崎がとなりに座ってきた。


「ずいぶんと知ったような口を利くな。」

説教をたれて尚且つ訳知り顔で話す山崎を睨み付けたら笑われた。むかつく。

「あの子にね色々きかれたんだ李斗君の事。歳はいくつだとか好きなものは何かとか。李斗君にあんな言い方されたから無理して笑ってたっぽいけど会えたのはすごく嬉しいって言ってた。」

微笑ましいとでもいいたげな表情で山崎は語る。
押し込めたはずの罪悪感がじわじわと戻ってきた。
あんだけ突き放したんだ。怒ってもいいはずなのに、なんであいつは会えてうれしいだなんて言えるんだ。

「それ、全部答えたのか?」

知らなければあいつにとって俺は他人のままでいられたのになんで俺を知ろうとするんだ。

「うん。あんなに嬉しそうに質問されたら答えないわけにはいかないし」

山崎も何勝手なことしてくれてんだよ。人の気も知らないで。

個人情報の流出だ。利用されたらどうすんだ。
そういったら「釈放したの李斗君でしょ」とまた笑われた。







「それにね、話してくれたよ







李斗君と会ったって言う昔の話」

思わず山崎の方を向いたら視線がかち合った。山崎の目に映る俺の顔はひどくおびえた表情だった。


「知らないもんは知らないんだ。俺にはどうすることも・・・」

視線をそらして下を向く。

「思い出せない、の間違いでしょ?
あんな突き放す言い方しなくても本当のことを言えばよかったのに」



「なんでいわなかったの。


記憶喪失だってこと。」





足に置かれた手を強く握る。
核心を突く山崎の言葉が刺さる。





「・・・今まで昔の俺を知ってる奴なんていなかった。・・・・なのに、今更現れても何にもできないだろ?一度なくした記憶なんてもういらないんだ。あいつなんか、俺の世界に必要ない」

最後の言葉は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。思い出してはいけないとなぜか思った。たぶん、思い出したら今の俺は崩れていく。根拠もないのにそう思って、昔の俺を知っていると言うあいつが怖い。

そんなことに怯えている自分にも腹が立った。

「必要ない、なんて本当は思ってないでしょ?本当にそう思っているなら普段の李斗君ならこんなに悩んでないよ」

「必要ないんだ。あいつなんか、昔の記憶なんか・・・・」

山崎の言葉を認めないように首を横に振る。


「そっか、でもあんな態度取ったことは謝っときなよ」

案外とあっさりひいた山崎は、それだけ言うと立ち上がって俺の方を向いた。


「それじゃぁ俺が聞いた過去の君は李斗君の覚悟ができるまで胸の奥にしまっておくよ。」



覚悟、か。思い出すための覚悟が、俺にはなかったらしい。思い出すなと言う心の声に逆らう覚悟が。

たった一人の少女のためにこんなに感情を揺さぶられるなんて、記憶を取り戻すのにこんなにおびえ覚悟できないなんて、俺はまだ





「弱いな・・・」

山崎が去ったあとつぶやいた声は誰にも聞かれることなく消えていった。
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