ぶっとばせ!
□12
1ページ/4ページ
銀時が記憶喪失になった。
万事屋三人組に街で偶然出会って聞かされたのはそんな衝撃的な話だった。
確かに今の銀時の様子はいつもと明らかに違っていた。目が死んでないし、妙に無口だ。いつもならウザ絡みしてくるはずなのに。
この事態のそもそもの原因は車にはねられて当たり所が悪かったことらしい。なんともありきたりでアホらしい。
「たいへんだなー。まぁ頑張れよ、それじゃあ俺は忙しいんでこれで失礼しまーす」
「いやいや、待ってよ。そこは少しは協力しようよ!」
関わるのはめんどくさそうだから早々に立ち去ろうとしたら案の定新八と神楽に止められた。
「そうアルヨ。銀ちゃんの一大事ネ。この話限定の李斗と銀ちゃんのキャラ被りなんて誰も気にしないアル」
「いや、別にその件に関しての心配は全くしてないんだけど」
引き留めようとする的外れな神楽のフォローにあきれるも、一応足を止める。
ていうか俺の記憶喪失設定なんて誰も覚えてすらいなかったと思うよ。
とりあえず、銀時の記憶を刺激するため、自己紹介から始めることにする。今まで何人かの知り合いに会ってまわってきてなんの成果もなかったらしいけど。
「えーと、俺は李斗って言います。覚えてますか?」
「すみません・・・」
銀時に自己紹介を試みるも、やっぱり記憶は全く残ってないようで、謝られる。まぁ新八や神楽のことも覚えてないんだから当然か。
それにしてもあの銀時が素直に謝るなんて普段ならありえないことだ。ちょっと面白い。
「いえ、記憶を無くして大変だったでしょう。以前あなたは俺の忠実な下僕として日々パシられていたん「ちょっと待てぇ!」・・・なんだよ新八」
銀時の記憶を呼び覚まそうと俺との関係性を教えてあげていたら新八からストップがかかった。
「なんだよじゃねーよ!紳士モードでなに嘘吹き込んでんだ!」
「李斗、そのネタはヅラが先にやってるネ。他のネタにするヨロシ」
「他にもやった奴いたのかよ。そいつ思いださせる気ある?」
「お前も人のこと言えないアル」
「神楽ちゃんから李斗も記憶喪失だって聞いたんだけど記憶を思い出すために試したことってある?」
「そうアル。記憶喪失の先輩からなんかないアルか」
「いや、記憶喪失の先輩って何?好きでなってるわけじゃないんだけど」
新八に聞かれて思い返すけど、目を覚ました時点で俺の周りに俺を知る人がいなかったから特に思い出させようとする人なんていなかった。
・・・そういえば、俺が記憶喪失だと知ったとき、総悟が思いっきりぶん殴ってきたな…
「おらぁ!」
「ぶべらっ」
「ちょっとォォォォォ!なにやってんのォォォォォ!?」
俺はそんな昔のエピソードを思い出しながら総悟が俺にしたように銀時をぶん殴ってみた。
「いや何か衝撃を加えればなおるかもと思って。ほら、テレビもそれでなおるときあるじゃん。」
あのとき総悟が言っていた理由を口にする。俺の時は普通に避けたから効果があるかは分からないけど。
「テレビと一緒にすんじゃねーよ!つーかお前の一発は強すぎるんだよ!再起不能になるわ!」
「銀ちゃーん、大丈夫アルカー」
白目をむいて倒れる銀時の頬を叩いて覚醒させようとする神楽。神楽の往復ビンタも結構なダメージだと思う。
やっぱり無理だったかなと思っていたら、「あ」と声を漏らした新八が顔をひきつらせて口を開く。
「・・・あの、さっき桂さんとこでもその方法をなりゆきで試す形になったんだけど・・・」
「へぇ・・・そんでどうなったんだ?」
「それが・・・」
言葉を濁す新八を不思議におもっていると、銀時が目を覚ました。
思い出したかと新八と神楽と一緒に覗きこむ。
銀時は俺達をしばらく見つめたあと
「君たちはだれだ?」
「「「・・・・・・。」」」
「それじゃぁ、俺帰るから」
俺はなにも見ていないし聞いていない。そう自分に言い聞かせて歩き出す。だがすぐに肩を掴まれた。
「いや待てェェェェ!何をなかったことにしてんだテメー!」
「銀ちゃーん!戻ってこーい」
仕方なく振り返って顔のかげを濃くした新八を見る。神楽は銀時の胸ぐらをつかんで揺さぶっている。
「いや、実際なにもなかったよ。銀時の口癖って『君たちはだれだ?』じゃなかったっけ?」
「んなわけあるかぁぁ!どんだけややこしい口癖!?」
「君たちは・・・だれだ?」
「お前はうるせーよ!ちょっとためんなイラッとくる!!」
「銀ちゃーん!しっかりするヨロシ!」
「グハァッ!」
神楽がなにを思ったのか銀時にアッパーカットを食らわした。
こいつホントに思い出させる気あるのか。
新八は銀時をものすごい勢いで抱え起こしてる辺りその気はあるんだろうけど。
「なにをしてんのぉぉぉぉ!?神楽ちゃんんんんん!なんなのお前ら!夜兎はみんなこんなんなの!?」
「「まあまあ落ち着けよ新八」」
「うぜえええええ!!」