ぶっとばせ!

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近づくごとに増していくむせかえるような血の匂いと耳障りな野次。それに耐えきれずため息をつく。

お上が関わっているため黙認されている通称煉獄関と呼ばれるこの場所。
ここで行われるのは賭けと称した殺し合い。

金が欲しいがために浪人たちが集まってくるんだろう。
侍の時代は終わったとされるが、今でも血気盛んな奴らは刀を腰にひっさげてやってくる。

いずれも煉獄関最強とうたわれる鬼道丸に敵わず呆気なくやられていくが。





「はぁ・・・」

闘技場に続く階段を上る間に二回目の溜め息がでた。

総悟が最近コソコソしてるから興味本意で顔を突っ込んだはいいが、予想以上にめんどくさい案件だった。関わらなければよかったと今更後悔する。

さっきから頭痛がひどいし。この空気にあてられたか、と思うが俺はそんなにやわじゃないと思い直す。

きっと恐らく多分疲労のせいだ。
どっかの副長が仕事しろとかうるさいからストレスがたまってるんだ。ストレスとかあんまりためちゃダメだから休んだ方がいいよな。

そうと決まればここの偵察なんかさっさと終わらせて帰ろう。
決意を新たにしたところで開けた視界。


目の前には座席を埋め尽くす観客とそれに囲まれて中央で対峙する二人。噂の鬼はいないようだ。

ゴングが鳴り響き、二人は同時に動きだす。

武器を振り回し戦う二人をぼんやり見ていると、突然脳を突き刺すような鋭い痛みに襲われる。
思わず手で頭をおさえ顔を歪めた。

いっこうに痛みはおさまらないどころか、ひどくなっていく。そのうちたっていられなくなって目を瞑ってその場にしゃがみこんだ。









気づいたら俺は煉獄関の広場の中央に立っていた。
・・・いや、違う。ここは煉獄関に似たどこか。おおまかな建物のつくりは似ているが、俺の見ていた風景とは明らかに違っていた。俺を囲み野次を飛ばすのは人間ではなく異形の姿をした天人だった。それに、俺はさっきまでこの場で行われる死闘を見ている側だったはず。なのになんで俺が死闘が行われる場所に

刀を持って立っているんだ。


まるで今から俺が誰かと殺し合いをするみたいじゃないか。
そんなことあるわけないのにそれを証明するみたいに俺の目の前には巨大な天人がいた。そいつはよほどでかいのか俺の背丈はそいつの腰あたりだ。
俺は持っている刀を自然に構える。「俺」の意思とは関係なく。構えた手が視界に入り、驚いた。自分の手が子供みたいに小さかったから。やけに地面との距離も近い。ここまできて状況を呑み込めないほど馬鹿じゃない。相手がやたらでかく見えたのは俺が小さかったからだ。子供みたいな手じゃなくて本当に子供の手なんだ。

俺が刀を構えたと同時に相手は持っていた棍棒を俺に向かって勢いよく振り下ろす。俺はそれを難なくよけて、相手の懐に入り込み、刀を胸に突きさした。

肉に刃物が食い込む感触。

真選組にいて何度も経験しているはずなのに、今更それに高揚した気分になった。まるで夜兎の本能そのものだ。

俺の動きに相手は反応すらできず、固まる。いや、心臓を突き刺したのだからすでに死んでいるのか。俺が突き刺さったままの刀を抜くとそれは支えを失い後ろに倒れた。
向かい合った両者のうち片方が倒れたのを見て周りの野次は一層うるさくなる。野次、と言うか勝者に対する歓声か。
俺はそれを聞こえていないかのように広場を後にする。
外につながるだろう通路に来たところで壁に寄り掛かっていた子供が俺を向いた。

「今回も瞬殺だったね、さすがだよ」

長い髪を束ねたその子供は俺よりいくらか背が高く、近くに寄ると見上げる形になった。

「さあ、早く帰って母様に報告しよう。きっと喜ぶ」

俺に向かって手を差し出した子供の顔は、なぜだろう。どうしても見えなかった。


















いつの間にかさっきの試合は終わって、対峙していたうちの一人が地面に倒れていた。
耳に届くさまざまな野次も、既に死んでいるであろう男の姿も、今見た映像にあまりにも似ていた。

「・・・クソッ」

あれはいったいなんだ?

突然脳に流れ込んだ映像に訳がわからなくて苛立つ。

今視て、聞いたものはなんだったんだ。
知らない



いや、どこかで分かってる。

あれは




なくしたはずの俺の記憶だ。
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