ぶっとばせ!

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「あれは今日みたいに蚊がたくさん飛んでる暑い夜だったねぇ・・・俺友達と一緒に花火やってるうちにいつの間にか辺りは真っ暗になっちゃって。
いけね母ちゃんにぶっとばされるってんで帰ることになったわけ。それでね、散らかった花火片付けてふっと寺子屋の方見たの
そしたらさぁもう真夜中だよ。そんな時間にさぁ
寺子屋の窓から赤い着物の女がこっちみてんの。」

真選組屯所の明かりを消した一室に隊士たちは集まり、稲山の怪談に黙って耳を傾ける。
稲山の話のせいか心なしか周りの奴等の顔色が悪い。
どこにでもありそうな怪談は怖いとは思えないが、稲山の下から懐中電灯を当てられた顔は結構雰囲気がある。

「俺もうギョッとしちゃってでも気になったんで恐る恐る聞いてみたの。なにやってんのこんな時間にって。そしたらその女にやっと笑ってさ・・・」

「マヨネーズが足りないんだけどォォ!!」

「ぎゃふアァァァァ!!」

いきなり入ってきた土方の声と同時に隣から衝撃。のし掛かる重みに少し体を動かすと何かが倒れる音がした。見たらそれは隣に青い顔して座ってた近藤さんだった。白目をむいて泡をふいている。ダメだこれ。

「副長ォォォォォ!!なんてことするんですかっ大切なオチをォォ!!」

「知るかぁマヨネーズがきれたんだよ!買っとけって言っただろ焼きそば台無しだろーが!!」

「土方さんマヨネーズなら買ってありましたよ。ごみかと思って捨てましたけど。」

「テメーのせいか李斗。ほら見ろテメーのせいで焼きそばがかわいそうだろうが。」

「かわいそうなのはあんたの頭ですよ。ちょっとそれ近づけないでください。マヨネーズ臭い」

「もう十分かかってるじゃねーか!なんだよそれもはや焼きそばじゃねぇよ『黄色いやつ』だよ!!」

食べ物とは到底言えなくなったものをもって現れた土方に隊士から避難の嵐。そろそろコレステロール値振り切って死んでくれないだろうか。


「アレ局長?局長ォォ!!」

「大変だぁ局長がマヨネーズで気絶したぞ最悪だぁぁぁぁ!!」

俺の横で倒れていた近藤さんは隊士に発見された。
マヨネーズで気絶ってなんだ。

「マヨネーズにそんな副作用が?やべぇ気を付けよう。」

「いや、ないから。そんなんあったら副長死んでるから。」

山崎が訂正してくるが、俺としては土方が早く死んでほしいのでマヨネーズにそういう副作用があるといいなと思いましたまる

「いや、『まる』じゃねぇぇ!!あんたの腹んなか真っ黒じゃねぇか!!」

「実は総悟が今日土方を抹殺する儀式をやるって言ってたんだが成功しただろうか。」

「止めろよぉぉぉ!お前ら下法にまで手ぇだしてたの!?」

「さて、俺はそろそろ寝るかな。」

「聞けよ話をォォ!!」

うるさい山崎

あべしっ

軽く叩いたつもりだったが山崎は二メートルくらいぶっ飛んで動かなくなった。大袈裟なやつだ。
近藤さんはいつの間にか運び出され、残った隊士たちも部屋から出ていく。

俺もその流れに従って自室へ向かう。
が、



「ぎゃぁぁぁぁ!!」

数時間後に響き渡った叫び声。これがきっかけだった。
屯所内でおこる摩訶不思議な事件の始まりは。























「ひでーなおい。これで何人目だ?」

「えーと、18人目ですね。」

布団が敷き詰められた室内で寝かされる隊士。あの悲鳴から次々と倒れていった。

「隊士の半分以上がやられちまったわけですね。さすがにここまで来ると薄気味わりーや」

しゃがみこんで様子をうかがっていた総悟が言うとおり、半分が倒れてしまった今、屯所内は静かだった。


「冗談じゃねーぞ。天下の真選組が幽霊にやられてみんな寝込んじまっただなんて。恥ずかしくてどこにも口外できんよ情けねぇ」

「トシ・・・俺は違うぞマヨネーズにやられた!」

「余計言えるか」

「あれ、近藤さんまだ生きてたんですか」

「え。」











「みんなうわ言のように赤い着物を着た女といってるんですが稲山さんが話してた怪談のアレかな?」

「バカヤロー幽霊なんざいてたまるか」

「霊を甘く見たらとんでもないことになるぞトシ。この屋敷は呪われてるんだ。きっととんでもない霊にとりつかれてるんだよ。ところで最近李斗がやたら冷たいんだけど反抗期かな」

「近藤さん俺はもとからあんたにはこういう態度です。」

最後の方は土方さんにだけ聞こえるように言ったらしいが聞こえていたので返事しておいた。そしたら近藤さんの空気が重くなった。正直に話しただけなのにめんどくさい人だ。


「・・・なにをバカな・・・」

呟くように言った土方。おそらく幽霊の話題だと思うが。
いきなり動きを止め、顔をひきつらせた。

「土方さん?」

「いや・・・ナイナイ」

俺の声も聞こえてないようでなにかを否定する。

土方の謎の行動に首をかしげていると、山崎の声が聞こえた。


「局長!連れてきました」

「オウ山崎ご苦労!」

山崎はどうやら近藤さんに頼まれて誰かを連れてきたらしい。

「街で探してきました拝み屋です。」

縁側に顔を覗かせて、俺が見たのは怪しさの塊のような三人組だった。

「何だこいつらは・・・サーカスでもやるのか?」

不本意だが土方に同意したくなるようなちぐはぐな連中だ。

「いや、霊をはらってもらおうと思ってな」

「オイオイ冗談だろこんな胡散臭い連中・・・」

「あらっお兄さん背中に・・・」

包帯で顔を隠した男は聞き覚えのある声でしゃべった。無性に腹の立つ銀髪の男の声によく似ている。

「なんだよ・・・背中になんだよ」

「ププッありゃもうだめだな」

「なにコイツら斬ってイイ?斬ってイイ?」

「土方さんがダメなのは周知の事実じゃないですか。なにを今更キレてんですか。」

「おいコラ李斗」

「ところで近藤さんこいつらの正体分かっちゃいました。こいつらよろず「うわぁぁぁぁ!ちょちょちょちょちょっとそこのイケメンなお兄さん!あなたなんかヤバイですよ!!」はぁ?なにがヤバイんですか」

わざと怪しい三人に聞こえるように近藤さんに話しかけると慌てて遮ってきた。この様子じゃやっぱりそうらしい。
冷や汗をかくやつらに目を向けると、三人は俺たちに背を向けて会議を始めた。

「ちょっと銀さんんんん!李斗にばれてるじゃないですか!なにがヤバイんですか!?」

「うるせーな。俺もそこまで考えてなかったんだよ。つーか李斗君めっちゃ睨んできてるんだけど。神楽、お前なんかてきとーに言いくるめろ。」

「よっしゃまかせといてヨ」

背を向けてからの会話は全て小声だったが全て筒抜けだった。俺以外には何も聞こえてないようで不思議そうにしている。会議が終わったのかこっちを向いた三人に近藤さんが不安そうに口を開く。

「李斗は大丈夫なんですか!まさか悪い霊にとりつかれてるんじゃ・・・」

心底不安そうに三人に尋ねる近藤さん。騙されやすいのは分かっていたがここまでとは。

「大丈夫アル。よく見たらそんなにヤバくなかったネ。ただ・・・」

「た、ただなんですか!?」

「お兄さん最近運命的な再会を果たした美少女とデートすることになるアル。」

「でででででデートぉぉぉ!?聞いてないぞ李斗!誰だ?」

「いや、誰でしょうね。検討もつきません」

知らないと答えてもなお詰め寄ってくる近藤さんがわずらわしくなってにっこりと三人組に向かって話しかける。

「ところで無駄話してないでさっさと仕事したらどうですか拝み屋さん?」

正体ばらすぞと心の中でつぶやきながら。

「「「そ、そうですね」」」

なぜかどもりながらもうなずいた奴らは、屯所の中を見て回ることにしたらしく、山崎に連れていかれた。
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