ぶっとばせ!
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将軍の妹であるそよ姫が脱走した。
その姫を探すために俺たちはこの溶けるような暑さの中江戸中にくりだしているわけだが成果はない。
この尋常ではない暑さは隊服のせいでもある。かっちりしたデザインに全身の黒は日光を存分に吸収する。シャツを半そでにしたり工夫をこらすが所詮気休め。総悟がノースリーブの隊服を売り込んでいたがそれを隊士たちは何の躊躇もなく受けいれていた。すでに熱さにやられているらしい。
俺は夜兎だから露出の多い服はだめだという理由で全力で遠慮させてもらった。
そんなわけで甘味処にでもよって涼みながら探そうと街を歩いていたのだが案外探し人はすぐに見つかった。公園のベンチで楽しく談笑中だった。しかも隣の姫の話相手は神楽だった。
近づくとこっちに気づいた神楽が俺の名前をよんで手を振った。
「李斗!!」
「よー。なにしてんの」
「このお嬢さんなにか困りごとがあるらしいネ。今日は役に立たない二人がいないから特別に李斗を万事屋臨時職員に任命するアル」
「そりゃどうも」
困っているお嬢さんを引き渡してくれたら俺の困りごとが解決するんだがと思ったりしたが任命されてしまったからには仕事をしなければならないっぽい。急展開すぎてついていけないぜ。
「あの、女王さんこちらは・・・」
俺たちの会話を聞いていたそよ姫は控えめに俺のほうを見た。
女王さんとは神楽のことらしい。どんな自己紹介をしたんだ。
「俺は「帝王アル」は?」
隊服でばれるかもしれないが、真選組だってことは伏せておけばいいかと名乗ろうとしたら神楽に遮られた。帝王ってなに。
「歌舞伎町の女王と並ぶ食物連鎖の頂点に君臨する帝王アル」
「まぁすごいですね。よろしくお願いします。帝王さん」
「うん。じゃぁそれでいいです。」
いつの間に俺はそんな最強になったか知らないが訂正する必要はないと見て放置する。ていうかそれで納得してしまう姫は天然なのか。
「それで?お嬢さんの困りごとというのは?」
「困りごと・・・そうですねじゃぁ・・今日一日お友達になってくれますか?」
友達になってくれという依頼を受け、万事屋臨時職員兼帝王となった俺は歌舞伎町を案内しつつ遊び回る事になった。
遊ぶといってもここが歌舞伎町であることを忘れてはいけない。通常子供の遊びといって想像するようなところに俺たちは今いない。
「さぁはったはった。丁か半か?」
博打だ。ここには神楽に頼まれ俺が案内した。なぜ未成年の俺が博打場に詳しいかというのはまわりにおっさんがたくさんいるからという理由で納得してほしい。
「半!!」
「俺も半!!」
「「丁!!」」
「じゃぁ私も丁で」
「半!」
俺と神楽は口をそろえて丁でそよも俺たちに続く。他は全員半だったが賭け事は強いのでかつ自信はある。
「ピンゾロの丁!!」
三人で顔を合わせてニヤリと笑う。
周りのオヤジたちは家に帰れないだのいっているが関係ない。さらに言うとどこの誰かは知らないがざまあみろである。
それからは博打で勝ち取った金で駄菓子屋により食料を大量購入し、パチンコ屋に寄った。
そこで元入国管理局の重鎮によく似た人物を見かけたが激しくダメ人間臭がするため人違いだと思うことにした。
パチンコ屋を出て次はどこに行こうかと相談していると神楽が河童を釣りに行こうと言い出した。河童が本当にいるのかとか釣っていいのかという疑問はないものとする。
河童のいるという池に来て釣りの準備をしていると携帯がなった。画面を見るとマヨ方の文字。神楽たちに先にやってろと告げ、電話に出る。
「はいなんでしょうか」
「なんでしょうか、じゃねぇよ。李斗今どこにいんだ」
「池」
「池ぇ?!おまえ探す気あんのか」
「めっちゃあります。もしかしたら姫様池に住まう河童に引きずりこまれて溺れてるかもしれませんよ」
「んなわけあるか。山崎からの情報だが姫さんは歌舞伎町に向かったらしい。お前がどこの池にいるかしらねぇがそっちに「きゃー!!」おいそこに誰かいるのか」
叫び声に振り向けばちょうど神楽とそよが河童を釣り上げているところだった。本当に河童がいたことに驚きつつさっきの悲鳴が河童を見たそよ姫の声だということを理解する。
今度は神楽と笑い声をあげていることから怖がっているわけではなさそうだ。
「人っ子一人いませんよ。空耳じゃないですか。それじゃ俺忙しいんできります」
返事を待たずに通話を切る。携帯をしまって釣り上げられたことに怒ってわめき散らす河童と神楽たちのほうへ向かう。
「あ!李斗だれからだったアルか?」
「んー口うるさい上司から」
「帝王さんにも上司がいるんですか?」
「元だけどな。彼は既に職場をクビになってるが俺が好意でたまに相談に乗ってやるんだ。新しい職場が見つかんないらしくてさ。」
「優しいんですね帝王さん」
「まぁな」
河童がわめき散らす声をBGMに会話をしているとついに河童がキレた。
「話をきけぇぇ!!」
「はいはい聞いてますよ。釣り上げるなっていう話ですよね。二人にはちゃんと言っときますから」
「そういうことだ。兄ちゃんしっかりしてるな。どれ、ビスケットをあげよう」
俺の手のひらに落とされたのは池の中でふやけにふやけきった液状化したビスケット色の何かだった。
それを無表情で見下ろし数秒見つめた後河童の皿にそれを塗りつけ礼を言った。
「ありがとうございます。」
「ぎゃぁぁぁ!!なにすんの大事な皿がァァ!」
「それはすみません。さようなら」
喚く河童がうるさかったので蹴り飛ばして池にお帰り願った。
「さすがアル李斗!」
「だろ?」
なにがさすがなのかよく分からないがとりあえず返事をしておく。手に残った液状化ビスケットを池の水で洗っていたらそよが当然の疑問のように聞いた。
「食べないんですか?河童」
液状化ビスケットのことを言っているのかと思ったら河童のことだった。姫様実はゲテモノ好きなのか。
「・・・・・・・たべねぇよ。あれ食ったら確実に死ぬ。」
あの河童に猛毒はないとしても精神的に死ぬ気がする。
「でも銀ちゃんが見た目がグロイ程うまいって言ってたヨ」
「あれは例外だ。それに銀色の頭をした人の言うことは信用しちゃいけないっていう言い伝えもあるから。」
「へぇもの知りなんですね」
「「まぁな」」
姫様の言葉に今度は神楽と同時にどやった。