ぶっとばせ!
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「なんですか、あれ。」
視線の先の状況が信じがたく、いや予想はしていたがなかなか受け入れがたいもので思わずつぶやいた。
視線の先、というのは満開の桜の木の下で某女性に殴られる我等がクソゴリラ上司のことだ。ついでに言うならば通常あのゴリラは俺たち真選組がリードをひいていなければいけないのだがあれは難なく脱走した。ゴリラの言葉を借りれば惚れた女を危険から守るため優しく見守
っているがための行動だとか。
「李斗」
ある程度状況を整理し、遠い目をし始めた俺は呼びかけられて横を見上げる。
そこには瞳孔の開いた元上司が立っていた。どうやら彼は殉死し幽霊になってなお、恒例となった真選組総出の花見に参加してk
「だれが殉死だ!!まだ足しっかりついてるわぁぁ!!」
「それは非常に残念です。で、なんですか?」
元上司改め土方は青筋を浮かべくわえたタバコを噛み千切る勢いだったが話が進まないと判断したらしく、話を元に戻した。
「近藤さん回収して来い。あと奴等を追い出せ。あそこは俺たちの場所だ。」
奴等、というのは近藤さんを殴り倒した女含め数名と一般的なサイズとはかけ離れた犬一匹のことだろう。
「なんで俺なんですか。いやですよ、んな面倒な事」
「お前だったらいけるって。いつもの似非紳士キャラで言葉巧みに追い出して来い。」
「似非紳士って俺はそんなキャラになった覚えはないですよ」
結局持ってきた弁当の中の卵焼き全てで手を打ち、俺は一段と騒がしい集団のほうに歩き出した。
「町奉行に相談したほうがいいって」
「いやあの人が警察らしーんスよ」
「世も末だな」
「うちの上司回収しにきたんですけどあの人と一緒にしないで欲しいってのが俺の感想ですかね」
見覚えのある銀髪ではあると思っていたがまさか全員知った顔だとは思わなかった。知っていたなら卵焼きを捨ててでも近づきたくはなかった連中だ。
「あ?誰かと思ったらミーハー少年。何しにきたの」
「ゴリラ回収だって言ってるんですよクソテンパ。あなたの顔の両側についてるのは何のための穴ですか」
それからミーハー少年呼びやめろと一発殴ろうとしたところでわき腹に軽い衝撃が来た。
「李斗!!会いたかったネ」
「神楽」
抱きついてきたのは先日和解したばかりの神楽で、ニコニコと笑顔を浮かべ嬉しそうにしている。
そんな神楽と俺の様子を見てもあとの二人が何も言わないのはおそらく神楽が話したからだろう。
「あら?李斗君じゃない。」
近藤さんの粛清が終わったようでお妙が戻ってきた。
「数日振りですね。クソゴリラがご迷惑をおかけしてます。ゴリラのくせに脱走が得意になってしまったようで」
近藤さんのほうを見ると前回回収しに行ったとき同様ボロクズと化していた。江戸の女は気が強い女が多いらしく、近藤さんが女に惚れるたび頬に赤いもみじ形をつけてくるか腫らしてくるかしていたが、今回はレベルが違った。いい加減目を覚まして欲しい。
「李斗さん姉上とも知り合いだったんですか?」
「はい。近藤さんがらみで知り合いまして・・・・姉上?」
不思議そうに問いかける眼鏡に返事をしたが、気になる言葉に首をかしげる。
「はい。僕の姉上です。」
「へぇそうなんですか。美人なお姉さんで羨ましいですね・・・・・・・太郎さん?」
「えぇまぁそうなんですけど名前全然違います新八です。」
「李斗君ったらお世辞がうまいのね」
「いえ、本当のことを言ったまでですよ。」
にこりと笑って立ち上がる。長居しすぎた。遠くから飛んでくる瞳孔の開いた視線がうるさい。
「さてと。近藤さんは回収していきますね。」
「李斗もう行っちゃうアルか?」
「おーおーゴリラ連れて早く帰rごふぁ!!」
わずらわしそうにシッシッと手を払う動作をした坂田は神楽に殴り飛ばされた。
「神楽ちゃんの言うとおりよ。もっとゆっくりしていけばいいのに。」
「いえ、誘っていただいたところ非常に言いにくいんですがあなた方に立ち退き命令が出てまして・・・・・」
「李斗の言ったとおりだ。そこをどけ。そこは毎年真選組が花見をする際に使う特別席だ。」
いつの間にきたのか土方が後ろに立っていて、坂田を睨み付ける。
坂田も言い返し、土方がこの場所の桜は格別だと皆に同意を求めるが土方の意に反しだるそうに意見を述べる面々。
「別に俺達ゃ酒飲めりゃどこでもいいッスわ〜」
「アスファルトの上だろーとどこだろーと構いませんぜ」
「酒のためならアスファルトに咲く花のよーになれますぜ!」
「子供みたいに駄々こねてたのはあんただけみたいだったようですよ。ちなみに俺も腹が満たされりゃどこでもいいです」
「うるせぇぇ!!ホントは俺もどーでもいいんだがコイツのために場所変更しなきゃなんねーのがきにくわねー!!」
確かに坂田の「アハハ気持ちいい〜」とかいいながら寝そべる顔にはむかついたがそれ以前に腹が減ってきた。早く弁当食べたい。
「李斗ちょいとこれ持ってろィ」
鳴りそうな腹を押さえていたら黄色いヘルメットが差し出された。
あ、ちょっとオムライスに見えてきた。
「その一線は超えちゃぁいけねェや」
ヘルメットをじっと眺める俺の思考に気づいたのかピコピコハンマーをもった総悟がいう
「わかってるよ」
ところで何やろうとしてんの。
俺が聞こうとしたところで総悟がいまだ言い争う奴等を止めに入る。
「堅気の皆さんがまったりこいてる場でチャンバラたぁいただけねーや。ここはひとつ花見らしく決着つけましょーや」
みんなの視線が集まる中俺が持っていたヘルメットを被って叫んだ。
「第一回陣地争奪・・・叩いて被ってジャンケンポン大会ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
「花見関係ねーじゃん!!」
盛大に突っ込みを入れる面々であるがなんやかんやで総悟の案は実行されるようだった。