ぶっとばせ!
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畳の部屋の隅に胡坐をかいて座って早数時間。俺のほかにもう一匹しゃべることのできる生物はいるというのにこの空間は始終沈黙に包まれていた。
気持ち悪い緑の肌に着物を羽織ったしゃべるカエル。それが今俺と同じ空間にいる生き物だ。何も好き好んでこんな気持ち悪い物体と一緒にいるわけじゃない。真選組の仕事の一環だ。
なんでも、このカエルはお偉いさんらしく、真選組は今、このカエルの身辺警護の任を任されていた。その中で俺はカエルに始終くっついて警護する役目になってしまっていた。非常に不本意なことに。
「おい」
しかし、長時間カエルと同じ部屋に缶詰めなため、気分が悪くなってきた。
「おい!」
具合悪いので保健室いっていいですか。
「聞いてるのか貴様!!」
「大体カエルは嫌いなんだよ。はいなんですか?」
「茶をもってこいと言っているんだ!!さっさといけ!」
唾を飛ばしながら叫ぶカエルの態度は人にものを頼む態度ではない。
「俺は警護のためにいるだけで召使じゃねぇんだよ。かしこまりました。」
「さっきから文句がだだ漏れだぁぁ!!口答えするな!!」
うるさい。文句も言いたくなる。
カエルの言い方にはむかついたが離れる理由が出来たので部屋を出る。
歩きながらお茶に何を入れようか考える。雑巾から搾り取られたどぶ水は必須だ。あとはタバスコでも入れておこう。
「いねぇし」
雑巾を絞ったあとタバスコを入れてまだ足りない気がしてそこら辺にあったなにかヤバそうなものをいれて持っていったらカエルはいなかった。
カエルに殺意がわいた。
めんどくさいが探そうと襖を閉めたら無駄に長い縁側の先から怒鳴りあう声が聞こえてきた。
そっちを見ると近藤さんとあのカエルがいた。
「?」
ふとみた屋敷から見える建物の垂れ幕の奥で影が動いた。
それがなにか分かったとたん、俺は声をあげた。
「近藤さん!!」
ドォォォォォォォン!!
俺が叫んだと同時に銃声が響き、近藤さんがカエルをかばって撃たれた。
銃弾が放たれた建物を見ると既に人陰はなくなっていた。それについては山崎辺りが追うだろう。
問題は近藤さんのほうだ。急所には当たらなかったみたいだが傷の深さは分からない。
カエルは無傷だ。近藤さんが怪我をおったというのに平然とするカエルにムカついてまだ湯気のたつお茶を持って、既に銃声に気づいて集まっている集団の方へ向かった。
「フン。猿でも盾代わりにはなったようだな」
近づいていくうちに聞こえてきた声に眉を寄せた。
その言葉に反応して総悟が刀にてをかけようとするが、土方に止められる。
「お茶お持ちしましたよカエル様」
「あっつぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
気づかれないよう静かにカエルの背後に近寄りお茶を頭からかけた。カエルは熱さにもだえ、床を転げ回る。実に愉快だ。
「李斗、お前見張りサボってどこ行ってやがった。」
床を転げまわるカエルを無視して土方さんが俺のほうを向く。
状況が状況なだけに土方の睨みがいつもよりきつい。今回はサボっていたわけではないので濡れ衣というやつだ。
「違いますよ。このカエルがお茶が欲しいとはほざくから。ちょっと離れた隙に逃げやがったんです。」
「貴様ぁぁ!何をする!!」
「いやですね、お茶が欲しいって言ったのカエル様じゃないですか」
「かけろとは誰も言ってない!あとカエル様じゃなくて禽夜だ!!」
「落ち着いてくださいよ。俺、禽夜様に少し言いたい事があるんですよ」
「なんだ?」
「近藤さんを、猿などと呼ばないでいただきたい。」
カエルを落ち着かせ、目を見据えて言った。自分でもわかるくらい声が低くなった。それに対してカエルの表情も一瞬固まるがすぐにあざけるような笑みが浮かんだ。
「フン。お前等なんぞ猿で充分だ。」
カエルは俺の言葉を鼻で笑って去っていこうとした。
その態度がむしょうに苛立ってカエルの胸ぐらを掴む。
「近藤さんは猿じゃねぇ・・・・
ゴリラだ。」
その瞬間空気が凍った気がした。カエルでさえ固まっている。
「李斗、ちょっと空気読もうぜ。そういうこという空気じゃなかったじゃん?」
土方が俺の方に手を置いて引きつった笑みを浮かべた。