ぶっとばせ!
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外に出ると空はすっかり暗くなっていた。
今日は夜間巡回だ。
めんどうではあるが今日はしかたがない。
明日の朝飯の卵焼きを人質に捕られたのだ。食堂のおばちゃんが作る卵焼きは絶品で毎朝食べるのが俺の日課だったと言うのに。
「土方アノヤローめ。いつかしかるべき報復を・・・・」
巡回ついでに近藤さん探しも頼まれたのも土方への殺意を増幅させた。
いつかはエサを求めて帰ってくるんだからわざわざ探さなくてもいい気がする。
ちなみに巡回をまじめにやる気はない。誰も見てないから告げ口する人もいないだろう。
早々にゴリラを回収しテキトーに時間を潰して帰ろうと携帯で目的に電話をかけようとしてふと思った。
俺に捜索願いださなくても携帯があるじゃないか、と。
土方は電話という手段を思い浮かばなかったらしい。マヨネーズは思考回路を遮断する副作用がある。嘘だけど。
4コールくらいで繋がった。
「・・・あ、近藤さん?今どこに「あなた、ゴリラの知り合いね?」え。」
聞こえてきたのは女の声。
近藤さんが女にふられ続けるあまりなんやかんやで突然変異を果たしたのか。ありえない。
まさか、ついに近藤さんに女が・・・いやでもゴリラとか貶されてるしそれこそありえない。
「知り合いね?」
携帯越しからも分かる黒く禍々しいオーラ。
近藤さんは何をやらかしたんだろう。
「えぇまぁそうですけど。うちの上司が何か?」
「とりあえずゴリラ回収に来てください」
近藤さんが面倒なことになっているのは予想がついたから指示された場所へとりあえずは向かうことにした。
指定されたのはスナックスマイル、いわゆるキャバクラだった。
そこに向かうと入り口にはポニーテールの美人とその足元に転がるボロボロの何かが目に入った。
「近藤さん回収にあがりました。それでいいんですよね?」
それ、と指したのは女の足元に転がるボロボロのなにか。
「えぇそうよ。あなたがゴリラの部下?」
「はい。非常に不愉快な事に。」
キャバ嬢は始終笑顔だが何かオーラがやばかった。今のところ被害はすべてゴリラが受けているがいつ俺に向かうかわかったものではない。早くその場を立ち去りたいが、あの近藤さんをここまでボロボロにする女も初めてで、何があったのか聞きたくなった。要するに、好奇心のほうが勝ったんだ。
「よろしかったらこれの経緯をきかせてもらえますか?」
なるほど、とひとつ頷いて整理する。近藤さん、いやこのゴリラは女にフられた傷を癒すためにキャバクラを訪れ、キャバ嬢の慰めを本気にして結婚を申し込んだらしい。
で、このポニーテールの女がそのキャバ嬢で、しつこく求婚するゴリラに制裁を下した、と。
傷を癒すどころか増えてるじゃないか。物理的に。とかその他諸々言いたいことはあったけどボロ雑巾と化している近藤さんにさらに傷を増やすのは気がひけて、「このクソゴリラ」と罵るだけに留め、その場から引き上げることにした。
「え・・・・」
数日後、街を歩いているとゴリラが川原で死んでいた。真選組のトップで割と強いはずなのに結構ボコボコにされてるのをみるけど実はMか。
「あらあなた昨日の・・・」
「あ、ホステスさん」
隣にはいつの間にか昨日ゴリラに求婚されたというポニーテールの美人が。
「そういえば名前を言ってなかったわね。私志村妙っていうの」
「李斗です。それでまたなんでこんなことに・・・・」
話を聞くと、お妙を取り合って喧嘩したらしい。
それで卑怯な手を使われて近藤さんは負けた。
さらに言えばここ数日、お妙は近藤さんからストーカーされていたという。
「最近見ないと思ったらそんなことを・・・すみません。俺からも言っとくので。」
「えぇお願いするわ。あのゴリラの飼育に疲れたらいつでもお店に来てちょうだい。あなたなら大歓迎よ」
「はい。ありがとうございます。」
未成年キャバクラに誘っていいのかとかあの店行っても疲れは癒されない気がするとかの言葉は飲み込んで素直に頷いておいた。平和的解決法。
お妙が去ってすぐ別の方向から声がかかった。
「こりゃどういうことだ。」
振り返らなくてもヤニくさい匂いとマヨネーズ的な声で土方だと分かった。
「マヨネーズ的な声って何?どういうこえなの?」
「見りゃ分かるでしょ。ゴリラの死体が転がってるんですよ」
「おい無視か」
「動物園から脱走したんですかねぇ」
「ねぇ言葉のキャッチボールって知ってる?」
「そういうことなんでゴリラの回収は任せましたよマヨ方さん」
「どういうことだよ?!おいちょっと待てオイ!!」
説明するのがめんどくさいからそこらへんの野次馬に任せることにして、俺は土方につかまるまえに逃げた。ゴリラの回収は前回で懲りた。死体を抱えながら町を歩くのは結構人目をひくんだ。