ぶっとばせ!

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「土方さん、二番隊突入準備完了です。」

ホテル池田屋を黒い集団が周りを固めている。
この建物の中には攘夷浪士桂一派が潜伏している。それらをひっ捕らえに俺たち真選組は突入準備をしているわけだ。
無線に向かって報告をすれば、機械越しに短い返事が返ってくる。機械越しのその声は続けて俺の名前を呼んだ。

「李斗、俺がさっき言った事覚えてるよな?」

「覚えてますよ。ガンガン行こうぜですよね。」

ここに来る前に無線の向こうの声の主、マヨネーズくそ上司に勝手に動くなとかどうのこうの言われた気がするが今となっては記憶の彼方だ。

今回は仕事より優先すべきことがあるからくそ土方の指示なんて聞く気はないんだけど。

「だれがそんなこと言ったぁぁ!指示があるまで待k」
土方の言葉を最後まで聞かずに近くにいた隊士に無線を預けた。このまま持っていたらうるさくて気が散る。
隊士と無線に背を向けて入り口へ歩き出す。

後ろで隊士が何か言っていても、土方の怒鳴り声が無線を通して聞こえてきても、

今の俺は止まる事を知らない。






























「既に我等に加担したお前に断る道はないぞ。テロリストとして処断されたくなければ俺と来い。迷うことは無かろう。元々お前の居場所はここだったはずだ。」
ホテルの女将に攘夷浪士の溜まり場をきき、そっとなかに忍び込む。状況がうまく飲み込めないが大使館が爆破されたとき見た覚えのある銀髪が桂に脅されているらしい。
銀髪が爆弾を投げ入れたからてっきり仲間かと思っていたけどどういうことだろう。まぁどうでもいいか。全員捕まえて聞き出せば問題ない。
気配を最大限に消して入ったせいか、誰も俺に気づくことはなくシリアスは続行される。

「うわー本当にいた。ナマ桂だ」

黙っているとしばらく気づかれなさそうだと思って声を出す。このままだと俺が単独でここに乗り込んできた目的も果たせない。
眼鏡の少年が何か言おうとしたところに被せてしまったけど気にしない。

「「「「?!」」」」

俺の声に反応して一斉に向けられる視線たち。

「いいいいいいいいつのまに?!」

物凄い勢いでさっき台詞を被せてしまった眼鏡の少年がどもる。
他も同じ心境なんだろう。揃って同じ表情を浮かべてる。
眼鏡を無視してここにいる攘夷浪士どものリーダーである長髪の男に歩み寄る。
桂のそばにいた浪士たちが一斉に刀に手をかけ俺を威嚇するがそれも無視した。目の前に来ても桂は微動だにしないが警戒しているのがわかる。
だが、警戒されるのはお門違いだ。俺はなにも真選組としてここにいるわけではない。その仕事はあとで来るだろう土方たちがやってくれる。

俺は、・・・・





「サインください桂さん。」

懐に忍ばせておいた色紙とペンを桂に差し出した。


これが、今日土方の指示を無視し積極的に敵陣へ侵入した理由だ。

桂のファンだとか攘夷浪士になりたいということではない。断じて。
事の発端は俺が先日隊士に連れられ有名人のサインが飾られた焼肉屋を訪れたことだ。そのサインがなんかいいなと思った。そして思い至った。(ある意味)有名人ならほぼ毎日追いかけてるではないか、と。
そこに舞い降りた桂の情報。これは実行するしかないと、そう思ったわけだ。


「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!」」」

見事に重なる驚きの大合唱は俺の鼓膜を突き破る勢いで響いた。
思わず顔をしかめるが色紙を渡された等の本人は驚いた様子はなく素直に色紙とペンを受け取った。
心なしか顔の筋肉が緩んでいる気もする。

「俺のファンだったか。どうだ?共にこの腐った国を立て直そうではないか。」


その腐った国の元で働いてる奴に言っていいのかといいたくなるが幸い誰も俺の正体に気づかないようだから黙って受け流すことにした。逆になんで気づかないんだ。隊服を着ているはずなのに。
攘夷語る前に眼科に行けと心の中で一括。
しかしこの状況はすごく好都合ではある。気付かれていないのならこのまま任務を遂行するに限る。

「すみません。家の人がそういうのは許してくれなくて。」

一般家庭で育ったごく普通の少年設定でいくことにした。
彼は攘夷に興味があるが、息子を愛するあまり過保護になってしまった親に自分の思想を語るも理解を得られず家を出ることも許されない。ならば憧れの攘夷浪士桂小太郎に一目会おうとここまできたのだ。

あくまで設定。


「そうか・・・。だが俺はいつでも待っているぞ。ご家族もきっといつか攘夷の魅力に気づいてくれるはずだ。」

はい頑張ります桂さん。

だめだ設定に飲み込まれかけている。
自分をも騙す俺の演技力に盛大な拍手を送る。
桂もまんまと騙されているようだ。

「時に少年、名前はなんと言うのだ?」

「李斗です。あ、それにも真選組二番隊隊長李斗君へって書いてもらえます?」

「真選組二番隊隊長・・・・・ね。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え。」

かきおえて、ようやく気づいたらしい。遅すぎると思うけどこれが普通なのか。攘夷浪士の能力指数がきになる今日この頃だ。

「攘夷浪士にサインもらった真選組なんて珍しいと思いません?」

案外スムーズに事を進めることができた。初めは入った瞬間斬りかかられ一人で殲滅することも考えていたがそんな心配は要らなかったみたいだ。

それにしても土方たちはまだか。目的を果たし大満足なので一気に全員逮捕でいいかな。


バンッ

「御用改めである。神妙にしろテロリストども」

真選組としての任務を遂行しようとしたところで襖が蹴破られた。
ずいぶんと遅い登場だ。

「イカン逃げろぉ!」

それに反応し逃げ惑う浪士。

「つーかあいつも真選組だ!」

「なんで今まで気づかなかったんだよ」

浪士の脳内が本当にわからない。
呟いたところで答えは返ってこないのでとりあえず進もうとしたところで肩を捕まれた。

「おい李斗、待機っつったよな?何勝手な行動してんだ」

「いや、サイン欲しくって」

既に目的は果たされ嘘をつく理由がなかったので証拠物品を土方に突きつけた。

「ホントになにやってんのぉぉぉぉぉぉ?!ばかなの?お前バカなの?」

バカとは失礼な。正真正銘のバカは今だ隊士の声とともに騒ぐ声の聞こえる攘夷浪士だ。

「勝手に行動した挙句仕事もせずサインもらうとかお前帰ったら切腹だからな」

「あーはいはい。それより早く行かないと逃げられちまいますよ」

その脅し文句は俺には効かない。
手をヒラヒラとふって聞き流し土方の注意をそらす。
土方は舌打ちをひとつして俺の指差した方へ向かっていった。
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