君と見たい景色
□コロンブスの卵
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コロンブスの卵
《そこにあるのは確かなのに、形としては渡せないんだって
そんなのおかしくね?》
「…ときどき俺は思うんだ
この世界はすでに容量を超えて溢れてるんじゃないかって
幸福も不幸も日常を満たし続けていて、だけど、溢れてる分は内側からじゃ見えないから、結局物足りなさを感じちまう
多すぎるものも少なすぎるものも、認識できないっていう観点から言えば、存在しないのとかわらないのかもしれないな」
『(ナイスに伝わるかな?それ…)』
《えーわかんね
つまりどうゆうこと?》
「つまりな、ATMじゃ小銭はおろせない。そんなの常識だろ」
電話越しに話すハマトラ探偵の2人、ナイスとムラサキ。ムラサキと共に外出していたリリアは、この下らない会話にそっと耳を傾けていたわけなのだが。
『ナイスなんて言ってた?』
「いま窓口に居るとさ」
『なんか銃声が聞こえた気がするんだけど…』
「…まぁ、大丈夫だろ」
『はじめちゃんもいるんだよ?
…心配だなぁ』
口先だけの言葉を並べるとムラサキも同情してくれる。
ハマトラ探偵でもなく、助手、でもなく、彼らの友人かもしれない私。かもしれない、と言うのは単にそんなこと聞いたことないからであって、友人であることに間違いはないと思うのだが。
現在私、ハマトラ探偵のお手伝いをしています。
2014年 横浜
道路の脇道に構えるここ、カフェ・ノーウェア。
ハマトラ探偵はこのカフェのテーブル(一台)を間借りして事務所にしています。
私はノーウェアの常連で、面白い内容の依頼に着いて行くだけだから、まぁ仮、もしくは"たまに"ハマトラ探偵となる。
ノーウェアにいるのは大体、ハマトラ探偵の2人と、ノーウェア常連の便利屋のレシオとバースデイ。そして、記憶喪失の少女はじめちゃんがいる。ほかの客なんて見たことない。
「よぉーナイスー
340円はおろせたか?」
「430円だ!バーガー買ったから今は310円だけど…
てかコネコは?」
「歩きながら食事をとるな
消化器官が正常に働かず、嘔吐の原因になる」
「さすがドクター 全財産300円の奴とは違うね」
「310円だ!」
「ミルク」
「280円だ。ナイスに付けとくぞ」
「今30円になったな」
「なぁ!?はじめちゃん
俺の夕食代〜」
「時は金なり〜お『金がほしけりゃ働け』ちょっ!リリア!」
私に言葉を遮られたコネコは可愛らしく尻尾をブンブンと振っている。
「なぁなぁリリア」
コネコの反応にニヤけているとバースデイに肩を抱かれた。
「今から俺たちといや俺と一緒に良いことしちゃわね?」
『お仕事じゃないの?』
「バースデイ。早く行くぞ」
「ちぇー
へーいへいっと。レシオちゃん怖ーい」
『頑張れ〜』
メロンソーダを飲みながら2人に手を振ると、バースデイはレシオに引きずられながらノーウェアから出て行った。
それを見届けカウンターに目をやるナイスとコネコも仕事の話になっていたようだ。珍しい。ついでに、いつの間にかムラサキが隣に座ってコーヒーを飲んでいた。
「なぁ、コネコ。仕事来てるか?できれば、すぐ現金になるやつ」
「貧乏ヒマなしだな」
「ん?
…いるなら居るって言えよ。ムラサキ」
『コーヒーなんてよく飲めんね〜』
「クリームソーダしか飲まないやつに言われたくないな」
『メロンソーダだよ!クリームは豪華なおまけなの!クリームはメインじゃない!』
「はぁ」
「依頼ねー来てますよー
それも二件」
呆れた目を向けないで。
コネコは二枚の紙を持ち、一つずつ説明を始める。
「一件目は、最近この辺で続発している女子大生を狙った連続誘拐事件の、犯人確保の依頼です」
『(ん〜つまんなそー)』
「二件目は!横浜、山手の旧家。豊崎家からの依頼です。
最近ご当主が、秘密の金庫を残して亡くなったんですが、金庫の開け方は亡くなったご当主しかわからず、ほとほと困り果てていると…
しかし、何者かがその金庫を盗もうて企てているようなんです。
と言うわけで!
ハマトラへの依頼内容は、金庫の護衛及び犯人の確保となります!」
『(おぉ、こっちのはなかなかない依頼だよね……楽しそう!)』
「バースデイとレシオは?」
「ボディーガードだって
知っちゃいけないことを知っちゃった女の子の護衛って言ってました」
「世の中知らなくていいことのほうが、多いもんだ」
「報酬額がケタ一つ違うな」
『さすがは旧家の豊崎家ってとこかな』
「確かに豊崎家は大富豪ですが、それだけではありません。
金庫を奪おうとしてる奴ら、どうやらミニマムホルダーを雇ったみたいなんです」
「んーなるほど」
「機転手当込みか…だが、リスクを恐れてちゃ探偵業は務まらないよな…ナイス」
「当然」
「決まりだ
俺たちがうける依頼は
「『旧家の護衛/誘拐犯の確保だな」
…話聞いてたか?」
「む」
「報酬額がケタ一つ違うんだぞ!」
「金じゃねーだろ!」
『お金でしょ!』
「付き合ってらんねぇ
だったらお前は安い依頼で貧乏探偵やってろ
行くぞリリア」
「言われなくてもそうする」
『あっ、ちょっと!
ムラサキ待って』
「行ってらっしゃい」
はじめちゃんが手を振ってくれたので振り返す。
私はムラサキの背中を追いかけた。
この仕事、楽しいことが起こりそうだ