幻想水滸伝

Who is it that ate?
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「なぁ、ここに置いてあったチーズケーキ知らないか」


口にしたのは、体躯の大きい隻眼の男であった。もしこの男の姿形だけを一目見ただけならば、今の発言は空耳か何かと受け流してしまう者もいるだろう。それ程、男の姿と「チーズケーキ」などという単語はミスマッチであった。


「さっき自分で食べてたじゃない」


男を一瞥しただけでシラッっと答えた見目麗しい少年は、銀の髪を耳に掛けながら先程まで読んでいた本に再び意識を戻す。


「違う! さっき食べたものはレーズン入りだった! ここに置いていたのは何も入っていない…真なるチーズケーキだ」


真なるチーズケーキって何。とは思ってみるものの、口に出さなかった少年は利口といえるだろう。男と中々に付き合いの長い少年は、こういったチーズケーキが絡んだ話をする時―おもに振るのは男の方だが―滅多に口出ししてはいけない事を知っていた。二人が出会った当時、何も知らない自分にチーズケーキの何たるかについてくどくどと説教された苦い思い出が少年の中に残っているからだ。


「お前が食べたのではなかろうな!」


「生憎、僕はショートケーキ派だよ」


「む…ならば一体誰が」


「そういえばカイルがさっきここに来てたよ」


少年の発した言葉を聞くや否や、男は我が身を覆うマントを翻し、「許さんぞカイル!」とばかりに勢い良く部屋を出て行った。
「いや、カイルが食べたかどうかは…」と呟くも時既に遅く、一人残された部屋で少年が溜め息をついたのは言うまでもない。


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