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□もう一度
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グレちゃった旭さんです


「旭…今日も行かないの?」

「…あぁ」

何回目だろう
旭にこの質問をするのは
そして

「俺がいたって…足を引っ張るだけだ」

何回目だろう
この泣きそうな顔を見るのは



私が旭と付き合ってちょっとした頃、烏野は大敗した。
10点差という数字はいつでも旭にまとわりついている。
バレーボールから離れた今だって。
旭だけが悪いんじゃない。
皆はそう言ったけれど旭は自分のせいだと思い込み、バレーボールから逃げるようにして部員から離れた。
皆が旭を心配して、何度も話し掛けにきた。
でも旭は何も変えることはなかった。
遂には彼女の私にまでその火が降りかかった。

「なぁ…その、旭を説得してくれないか?」

「説得?」

「バレーボールに来るようにって」

「…わかった」

大地はいくら月日が経っても諦めようとしなかったし、小さい下級生の男の子もずっときていた。



「ねぇ旭…もう戻る気は無いの?」

「…」

旭は何も答えない。
私より幾分背の高い旭を見上げれば、見える後頭部。
わかってる。
旭はまだバレーボールをしたいんだよね?
でも

「…名前」

「何?」

「…俺さ、」

その時、一瞬旭の顔に陰が刺した気がした。

「…何でもない」

「…そっか」

赤く燃え盛るような夕陽が私達を染め上げる。
旭の手が握りしめられ小さく震えていた。
だから私はその手を握る。
旭は驚いたように振り向く。

「旭、帰ろうか。」

微笑んで旭の手を両手で包み込む。

「そうだな」

そう言って笑ったあなたの顔があまりにも哀しそうで。
泣きそうになりながら私も言う。

「そうだよ。早く…早く帰ろう…」

いつか戻ろうとするその日まで
私はあなたを支えていくよ
重なり合った影に、1つ小さな染みができた。









fin

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