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□私のヒーロー
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私の好きな人である虎鉄さん。
または
ヒーロー、ワイルドタイガー

「虎鉄さーん?お邪魔しますよー」
私は虎鉄さんの部屋へと足を踏み入れる。
「うわっと」
足を床につけようとしたら瓶が私の邪魔をしてきた。
見渡せばそこらに転がる瓶に洗われずに堪った食器。机の上には食べたあとを思わせる皿やらコップやらが放置されている。洗うときが大変なのに、、、
コートをハンガーに掛け、掃除を開始しようとする。
すると虎鉄さんがソファの上で寝息をたててすやすやと眠っていた。
「、、、かっこいいな」
頭の下にある少し筋ばった腕が、閉じられた瞳が。いつもとは違うその姿に心がざわめいてしまう。
「、、、ちょっとぐらい、いいよね?」
私は虎鉄さんの前まで回って唇へ顔を近づける。ドキドキとなるこの音が彼を起こしてしまわないだろうか?
変な緊張感が私を支配する。
−チュッ−
小さなリップ音を残し離れる唇。
カアァと私の顔へ熱が集まる。
「な、なにしてるんだろ。早く掃除しなきゃ」
ワタワタとその場から離れようとする。
しかしそれは阻止された。
虎鉄さんが伸ばした手によって。
「へっ!?」
私はソファへと押し倒される。
「まさか俺のことをそんな風に思っててくれてたとは」
虎鉄さんは私の上に跨がり怪しい笑みを浮かべる。骨ばった指がネクタイを外す。シュルリという音がやけに扇情的だ。
「な、もしかして最初から起きて、、、」
「家に来たときから起きてた」
「じゃあ寝たふりしないでくださいよ!?」
「寝たふりをしたおかげでいいことが聞けた」
「ば、ばか!!」
互いの吐息がかかるほどの距離で話されて口から心臓が出てしまいそうだ。
虎鉄さんが私の頬に手をあてる。


私の右頬に―


ヒヤリと冷たく感じる指輪にはっと気付かされる。
虎鉄さんには愛した人がいて、私なんかよりももっと大切な人がいる。
「冗談やめてくださいよ。さぁどいたどいた。」
私は虎鉄さんの胸を強く押す。
「ハハッばれた?」
ニカッと虎鉄さんは爽やかに笑う。
私が傷ついているなんて知らずに。
私の上からどいた虎鉄さんはふぁぁぁと盛大な欠伸をしてソファから降りた。
「今日も掃除よろしくな」
「えぇ頑張りますよ」
虎鉄さんに背を向けてバックから雑巾や買ったばかりのタワシなんかを出して台所に向かう。
私の目からは何度目かの涙が溢れていた。








fin

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