今度こそは幸せに。

□第二話
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后の記憶を取り戻すそれを決意してからというもの、さりげなく晴明様と修行した場所に連れて行ってみたり、俺がサッカーをしていたのをはなしてみたりと試せることはたくさんやってみた。だが、やっぱり思い出す気配は一向に見えない。普通は覚えていなくて当たり前な記憶。逆に持っているほうが変なのだ。でも、思い出さないと后は、、、。

「どうすればいいんだよっ!」

思っていたよりも声が響く。今はもう放課後で人がいないといえどここは教室だ。授業中からずっと考えていたらいつの間にか放課後になっていたらしい。

「なんで今の俺はこんなにも、、、。」

無力なんだ。そう思うと目から涙がこぼれそうだ。でも、それをぐっとこらえる。后を守ると決めた時から絶対泣かないと決めていたのだ。

「はあ、、、。帰ろう。」

鞄を持って立ち上がる。そのまま帰ろうとするとドアの方から視線を感じた。そこに目線をやると俺は目を疑う。

「后、、、?」

「か、甘雨。まだ残ってたのか?」

「后こそ、帰ったんじゃなかったか?」

俺の独り言が聞かれていないか。もし聞かれていたとして、俺は何か聞かれちゃまずいことを言っていたか。そんなことばかりが頭の中を占めていく。

「いや、忘れ物があって戻ってきたんだけど。」

「そうか、いつからそこにいたんだ?」

「じゅ、15分くらい前かな、、、。」

なんということか、全部聞かれていたらしい。でも内容が分かるようなことは言ってないはずだ。

「あんま気にしないでくれよ!じゃあな后、俺は帰るから!」

とにかく、早くこの場から離れたくて別れを切り出し帰ろうとする。でもそれは、后が俺の腕をつかんだことにより叶わなかった。

「待って甘雨!俺本当はお前が心配で戻ってきたんだ!」

「え、、、?」

「なんか今日元気なかったから、、、。さっきもなにか悩んでたみたいだし、何かあったのか?」

俺のことを心配してくれるのは嬉しい。でも何をいえばいい?俺が説明してもきっと后はなんのことか分からないだろう。俺はこういうしかなかった。

「どうもしないぜ。心配してくれてサンキューな!」

俺はそういいニカッと笑う。昔から后の前でよく使ってきた笑い方。自分の感情を隠す、俺の得意な笑い方。

「違う。」

「、、、え?」

そういうと后は俺の両頬を手で包む。俺は何が起きたかすぐにつかめず、固まっているしか出来なかった。

「その笑顔は、違う。大丈夫じゃないときのやつだ!」

「こ、后、、、?」

「あ、ごめん。俺にもなんかわかんないけどそう思った。」

一瞬、后の記憶が戻ったのかと思ってドキッとした。そんなわけがないのに。

「でも、大丈夫じゃないのは分かった。俺には、やっぱ話してくれないのか、、、?」

「后、、、。ごめん、話さないじゃなくてまだ話せないんだ。」

そう、今のままじゃ話せない。后に今こんな悲しそうな顔させているのは自分。そんな事実に胸が痛む。

「じゃさ、少し俺の話聞いてくれるか?」

「后の話?」

「うん、戻ってきたのはそれもあるんだ。」

何の話だろうか。俺が転校してきてからというもの遊びや勉強、そんな他愛のない会話ばかりだった。(それが俺が記憶取戻し作戦で苦戦していたところなのだが)そんな后から真剣に話だなんて想像ができない。それだけならまだいいものの、俺は、昔に戻ったようなこの状況に期待している。本当、そんな自分自身に呆れる。

「とりあえず、座って話そうぜ。」

后はそういい、さっきまで俺が座っていた前の席に座る。俺も座って向かいあって話すということなのだろう。

「で、話って?」

俺が座り、そういうと后は話し始める。

「甘雨さ、この学校に転校してくる前に俺に会ったことある?」

后のその言葉に俺の心臓が飛び跳ねたような気がした。でも、まだ思い出したというわけではないかもしれない。俺はあくまで動揺せず、后に返す。

「何でだ?」

后はその言葉にまた顔をしかめる。そして言いづらそうに言う。

「最近、、、夢に見るんだ。」

「夢?」

「うん。俺も甘雨も、言もいて、他にもたくさん人がいて。俺は何かを守りたくて一生懸命なんだけど苦しそうで、でもその何倍も楽しそうなんだ。でも、最後ははっきりとは見えないんだけど、、、失敗するんだ。みんな悲しそうにしてた。」

「、、、。」

「俺は今、普通の高校生のはずなのに何かと戦ってたり、変な力があったり、何なんだろうこの夢。」

それは間違いなく前世の記憶。でもその最後のところ、一番重要なところが見えていない。

「后、、、。」

「おかしいだろ?こんな夢を毎日見る。そして必ず目が覚める直前、夢の中の俺が言うんだ。“思い出せ”って。」

昔の后が、、、?そうか。やっぱり后は、いや后も繰り返したくないんだ。あの悲劇を。

「なあ、甘雨。俺は何を忘れているんだと思う、、、?」

「后、その話他の誰かにしたか?」

「いやまだだけど、、、。なんで?」

他の人に聞かれるとまずい。特にこんな話主神言にだけはばれてはいけない。

「明日の放課後、俺の知っている限りのことは、言えることは話す。だからその話誰にも言うな。」

「あ、うん?」

「家族も、兄弟もだめだからな!」

「分かったって。」

「じゃあいいんだ。今日は帰ろうぜ、途中まで送っていく。」

そう送ろうと立ち上り手をだした時、背後から冷たい視線が刺さる。これは間違いなく、

「兄さん!遅くて迎えに来ちゃった。ちょうど兄さんの姿見つけたと思ったら、そいつが兄さんの手をとろうとするんだもん。」

どうやら今来たばっかりのようだ。それには安心する。とりあえず、今日のところは自分が身を引いてやろうと思う。

「じゃあ、后。俺は帰るな!また明日。」

そういって俺は今度こそ教室を出る。全ては、明日。

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