NOVEL(FFW)

□聖騎士
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聖騎士団団長のマリーは眺めていた髪飾りをしまうと、後ろにいた副団長と向かい合った。

「明日の試験も兼ねて森の狼の掃討を行う。」

マリーの言葉に副団長は敬礼した。

「試験監督の騎士達は配下の訓練兵と最後の確認を行っています」

「例の獣が出現したときの対策も今一度確認するようにしましょう」

森ではここ数年、正体不明の獣が、人を襲う事件が頻発していた。1人か2人でいる子供が狙われて、連れ去れて死体も残っていなかった。唯一木の幹に隠れて助かった子供の証言で、狼よりも巨大で狂暴な獣だったということが分かった。見習い兵が遭遇したら過酷な状況になるだろうが、聖騎士達が守るので心配なかった。緊急時の彼らの行動力を測りたかった。この試練で沈むような者だったら、聖騎士団としては必要なかった。

「例の王女、特別扱いはしませんが、どうしますか?止めさせるなら今ならまだ間に合います。」

マリーは副団長の氷のように冷静な瞳を見つめた。

「特別扱いはしなくていい。何かあったときの責任は私がとる」

「セシル王達に義理があるとは言え、何もそこまであなが面倒を見る必要がありますか?カイン様も無責任なことです。王女を連れ戻したと思ったら聖騎士団に任せて行ってしまわれた。」

副団長の言い分もマリーは理解していた。

「全くダムシアンに嫁いでくれれば何も問題なかったと言うのに。今まで圧力に屈しなかったとは言え、才能がないのなら早くに諦めさせて別の道を探させた方が賢明に思えます。」

「…それも明日の結果で決めましょう」

マリーは副団長が下がった後に再びローザの髪飾りを取り出して見た。
セリアから受け取ったローザの髪飾りは、クリスタルでできていた。ローザの白魔法がかけられたクリスタルは、薄紅色に輝いていた。

「ローザ様…」

マリーは王妃の名前を呟いた。
以前の世界を巻き込んだ戦争で、夫の父親に当たる科学者は重大な犯罪を犯していた。人体をモンスターに変化させる実験を狂気的に行い、成功させていた。セシル王達がその愚行を止めたと聞いている。夫はその父親の罪を償い、実験を平和に役立てようとしていた。セシル王とローザ王妃はそんな夫をとりたててくださり、夫の実験は日の目を見た。革命後もその貴重な研究はそのまま継続を許されていたが、実験が悪用されないようにマリーは夫と共に抑止力になりたいと思っていた。王族達の持つ特別な力を、王族以外の人間にも備えさせることを可能にする研究だった。しかし陸兵の報告では、先日の祭で起こった爆発は、武器を持たない人間達から突然発動したらしかった。それを知ったマリーは、夫達の研究が外部に漏れているのではないかと疑っていた。明日の試験の後に夫と共に調査をするつもりだった。
セリア王女はその祭の騒ぎの時にこのローザ王妃の髪飾りを手に入れたそうだった。外見こそ親に良く似ているが、内面は全く異質な王女の姿をマリーは思い浮かべた。セシル王やセオドア王子のような光輝く性質が王女には一欠片も感じられなかった。子供の時と比べてあまりの変わりように、良く似た侍女とすり換わったのではないかとの噂も出たほどだった。カインから王女を任されたときは、喜んで彼女を聖騎士に導きたいと思っていたが、力不足を感じていた。マリーは彼女の心から光の素質は感じられなかった。カインの話では、王女は黒いクリスタルに耐性があるそうだった。そこからよりエネルギーの高い元素を取り出す研究の助けに王女がなるのではないかと期待していた。しかし今の王女ではその黒いクリスタルの力を悪用するのではないかと危険にさえ思えた。王女は騎士としての基本的な能力は備わっているが、聖騎士としての志にはまだ遠い。そして聖騎士は騎士の中では最も難関な資格だった。毎年聖騎士になれなくて別の道を志す者の方が多かった。王女にも別の道を選ばせるかもしれないとマリーは思っていた。王女は高所が不得手なため、別の道も限られるかもしれないとマリーは思った。
あれでは聖騎士というよりはまるで…。マリーは恐れている考えを振り払った。

「ローザ様…お許しください」

マリーは呟くとローザのクリスタルの白魔法を解いた。

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