NOVEL(FFW)
□髪飾り
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舞台上のサラは歌を止めると幕の中に走り去った。
セリアは捕らえるために舞台裏に向かった。観客は眠りから覚め始めていた。舞台裏は暗かったが、サラの小さな歌声が奥から聞こえた。セリアは剣を構えた。
歌が止んでサラが青ざめた面持ちでセリアの前に出てきた。
「王女様…そのお顔、よく似ていらっしゃるのに、気付かずに申し訳ありません。」
サラは髪飾りをはずした。
「なぜこんなことを…」
「今日かくまったのは同郷の者達です…。いかなる処罰も受けますが、その前にお渡ししたいものがあります。ローザ様からこの髪飾りを王女に渡すように頼まれていました。」
薄紅色のクリスタルの髪飾りをセリアは手渡された。
「ローザ様は城から逃げるときに私にこれを託されました。白魔法がかかっているようです…」
優しい色のクリスタルは薔薇の形に彫刻されていた。
「その女、信用するなよ。そいつの歌の魔法で民衆が煽られて俺達の身内は革命で殺されたんだ」
いつの間にか先程セリアを助けた男が来ていた。
一瞬カインかと思ったが、彼より幾ばくか線が細かった。カインと同じ王族出身の男でセリアの幼馴染みだった。
サラは俯いた。
「…本当にそうなの?」
セリアが聞くとサラは頷いた。
「この女は今の地位欲しさに国王を裏切って革命軍に味方したんだ。今になってまたこんな真似をしてどういうつもりだか…」
「申し訳ありません…。あの時どうしても歌手になりたかったので、わ、私は…彼らの言う通りに…」
カインに似た青年はサラを拘束すると連行しようとした。
「…ベリル、どうしてここが分かったの?貴方も機密兵団でしょ。何かあったの?」
「…この女を見張る任務だったんだ。お前を助けたのは偶然だ。」
「…助けてくれてありがとう」
ベリルは他に捕縛した男達を正気に返った兵達に任せて、セリアを振り返って言った。
「お前まだ見習いなんだな。早く一人前になれるように頑張れよ」
捕らえれた男達はベリルに向かってわめていた。
「ベリル、革命の時お前が逃げてきたとき俺達の地域で匿ってやったじゃないか!」
「恩を忘れたのか!?」
「…悪いが今は国のためにならんことはできないのでな」
ベリルが見張っていたのはサラではなく、自分なのではないかとセリアは考えていた。
『セリア、ここにいたのか?』
セレストが探しに来てセリアは振り向いた。
その瞳が凍ったように殺気を含んでいて、一瞬セレストは怯んだ。セレストを認めるとセリアはすぐに元に戻った。
「セレストは大丈夫だった?」
『僕は大丈夫だ。君はよくあの歌の魔法を解けたね』
「これのおかげだよ」
セリアはカインからもらった胸のクリスタルをセレストに見せた。
『クリスタルは魔法の状態異常を解く効果もあるんだね』
「そうみたいだね。それとサラからもクリスタルをもらった。」
セリアは手のひらの薔薇を見せた。
「母上のだ。サラは母上の侍女だったから預かっていたそうだ」
『ローザ様の?』
「白魔法がかかっているらしいの。私たちは白魔法は使えないから何の魔法か分析はできないけど…」
『一度聖騎士団長に見てもらおう。あの人なら白魔法も使えるし信頼できる』
「そうだね。その前に、私の持っているクリスタルと組み合わせてみようか、どうなるかな…」
2人は2つのクリスタルの効果に興味を持った。セリアはクリスタルを触れ合わせた。2つとも邪気のあるクリスタルではないので良い力が高まるのではないかと考えた。
2つのクリスタルは小さく内部から光り出した。暖かい風と光が内部から金粉のようにこぼれ出した。セリアは先程までの暗い感情が消えていくような気がした。
「サラ…」
目の前にローザがいた。 「私はあなたのしたことを許します。だからこれをあの子に…」
ローザがそう話すと、セリアは元の場所でセレストと二人きりに戻っていた。
『今のはローザ様…?』
セレストもローザの姿を見たのだった。
「セレストも見たの?」
『うん…今のはローザ様の記憶か何かかな…』
二人は警備に戻るために元来た道を帰り始めた。
「なんだかいろいろあったけど母上を見れてよかった。無事だといいけど…」
『きっと大丈夫だよ』
「…」
セリアは王と王妃が無事な可能性は低いと思っていた。未だにカインも二人を見つけられずにいるのだから。
「さっきのサラはどんなつもりでこのクリスタルを持っていたんだろう」
セリアはローザのクリスタルを見つめた。さっき見えたことが事実ならローザはサラのしたことを知って許したのだ。
「私は革命で私達にあんなことをした奴らが憎い。母上のように優しくははなれない…。でも、だからと言って…」
こんな状態でとても心の清い立派な聖騎士になれるような気がしなかった。
セレストはセリアの手を取った。
『…本当に強い人間は君の父君みたいに、憎しみも含めて自分自身を理解して受け入れた人間だと思うけど…。君もきっとそうなれるよ。行こう、交代が遅くて待ちくたびれてるよ』
セレストは暗闇の道でセリアの手を取ったまま走り出した。
「セレスト、危ないよ」
『暗闇の方が道がよく見えるんだよ』
暗黒騎士はそういうものだとセレストは言った。
花火が鳴り始めて、表道の群衆は感嘆の声を上げ始めた。