NOVEL(FFW)
□議会
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「ここももうすぐだな…」
カインはバロンの議会に参加するための帰途で、飛竜から下に広がる渓谷を見下ろして呟いた。
「竜騎士団団長カイン・ハイウィンド、諸国の査察より帰国しました。」
バロンに帰参し、議会室に入室する際カインは護衛に腕章を提示した。
「カイン様、皆あなたのお帰りを心待ちにしていました」
護衛は敬礼すると会議室のドアを開いた。
カインは議長に敬礼すると席に着いた。
「竜騎士団団長カイン。まずはあなたの査察の報告から」
議会には各騎士団団長と各身分の代表が席に着いていた。
「調査の通りファブールとミシディアの間に広がる境界の地竜は目覚めかけています。もって数年です。早急にダムシアンの王族に地鎮の用意を依頼した方が賢明かと。」
飛空挺団団長が反論した。
「ダムシアンの協力がなくとも飛空挺の攻撃力があれば完全な制圧も可能です」
カインは革命後、竜騎士団団長に戻っていた。世界の竜が凶暴化する中で、機敏性のある竜騎士団の存在意義は高まっていた。一方攻撃力では勝るはずの飛空挺団は実戦からは遠ざかっていた。地竜の制圧は飛空挺団にも可能だか、多くの犠牲は避けられなくなってしまう。
「話し合いで方向性は決めるとしよう」
議長は壇上で宣言した。
飛空挺団団長は内心穏やかではなかった。革命で王や王族は実権を失った。しかしこの竜騎士団団長は王族の血をひいているのに涼しい顔をして議席に着いている。国民や生き残った王族からの信頼も厚い。飛空挺団団長は苦々しい思いだった。
「あの生き残った王女は黒のクリスタルのコントロールは習得できそうなのか」
聖騎士団団長は議長の質問に答えた。
「今少し時間がかかるかと。」
黒のクリスタルはミシディア近くの領海で近年採掘されたクリスタルだった。通常のクリスタルに比べるとエネルギーは数倍に及ぶが、直接触れると人体にも悪影響があるため、扱いが難しかった。
「研究者達は王女の実験協力を希望していますが、王女は完全に自分の能力を習得してからの方が安全と思われます」
聖騎士団団長は議長に説明した。
カインは表情を曇らせた。研究者達はセリアの人体実験を要求しているのだ。セリアだけが黒のクリスタルの力をコントロールする能力を秘めていた。王族の中では最も黒のクリスタルとの良好なシンクロが確認されていた。
「では期限を設けるとしよう。その期限を過ぎてなおかつ能力を習得できず、聖騎士団入団資格も得られなければ、訓練生資格は剥奪、研究所行きも含めて身の処し方を再度検討させる」
議長は聖騎士団団長に言い渡した。
飛空挺団団長は王女を連れ戻したカインの意図が読めなかった。黒のクリスタルがコントロール可能になれば、今よりもっと大型の戦闘力も強い飛空挺建造も可能となる。そうなれば飛空挺団には望ましいことだが竜騎士団には何の恩恵もないのではないか。それともカインは王女を利用して王政回復の目論見があるのか。案外、ローザ王妃を拐かして、革命の原因を作ったとまことしやかに噂されているのも本当ではないかと思った。全く心の内も読ませないカインが恐ろしくもあった。以前カインの暗殺に失敗した刺客達の言葉を思い出した。
(あの方には何か恐ろしいものがついています…)
刺客達は誰もがそう言って二度と使い物にならなくなった。