Purple road―紫色の堕天使達―
□第21話 麗羅二代目回想録[前編]
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5年前の西湘。陽次たちがまだ小学生だった頃、街で1番危ない男として葛西は名を轟かせていた。
葛「…はぁ、はぁ、はぁ……」
それはある昼下がりの事だった。もう幾度目かわからない喧嘩を吹っかけられ、葛西はいつも通りに応戦していた。足元には既に5~6人が倒れており、葛西の手には血まみれの7人目が引きずられていた。金髪リーゼントに返り血を浴び、瞳には苛立ちを宿し、葛西は7人目を放り捨てた。
葛「退屈だ……てめぇら退屈なんだよ!喧嘩売って来といて簡単に寝やがって……」
苛立ちを全面に出すと、足元に転がる相手を踏みつけて言い放つ。そんな光景をじっと眺めている女が1人、その女はゆっくりと葛西に歩み寄った。
?「へぇ、あんた1人でのしちゃったんだ…なかなか強いじゃん。」
葛「……誰だあんた、女が1人こんな場所居たらあぶねえぞ。帰れ。」
?「…」
葛「なっ!」
気安く話しかけてきたその女に、葛西は更に苛立ちを覚えながらも冷静に話す。次の瞬間、その女は鋭い拳を寸止めで放った。これにはさすがの葛西も呆気にとられる。
?「ちょっと強いからってなめんじゃないよ、あたし、こう見えても強いよ?」
葛「っ…このアマ!」
女の発言に目を見開いて、胸ぐらを掴んで殴ろうとする葛西。しかしその拳は振るわれることはなかった。なにを思ったか寸止めで解放したのだ。
?「殴んないの?」
葛「…チッ、女殴ったってつまんねえしポリシーに反するんだよ。いい根性してやがって、お前名前は?」
美「…美雪。」
葛「そうか……とにかくもう帰れやな。」
美「ちょ!……あーあ、いっちまいやんの…面白い奴だったなぁ…」
美雪の声に答えず、背を向けて歩いて行ってしまった葛西。そんな葛西の後ろ姿に、美雪はクスりと笑う。これが運命の出会いになることは、その時はまだ分からなかった。
翌日、葛西は宛もなく海岸沿いを歩いていた。彼は西湘高校に入学したが、喧嘩により3ヶ月で退学している。鳶職を勤めたりもしたが、親方を殴ってクビ。現在は宛もなく荒んだ生活を送る毎日である。
葛「…群れなんて、クソ喰らえだ…数集めたってよォ、最後に役立つのはてめぇ1人の根性だぜ…クソッタレがっ…!」
カーンッと落ちていた空き缶を蹴り飛ばす。気が晴れる訳でもないが、なにもしないよりはマシである。地面に唾を吐き捨て、立ち去ろうとした時だった。
?「いってぇ!誰だコラァ!!」
防波堤の下の砂浜から、罵声が飛んでくる。葛西は気にもとめず歩きだしていた。下にいた何者かは、その姿をたしかに確認し、葛西のもとに駆け出した。