Purple road―紫色の堕天使達―

□第14話 西湘バイトウォーズ
2ページ/5ページ

藤嶺のバイトの話を聞いた夜の事だった。自宅の部屋にて夏目は、貯金箱を見つめあっていた。否、正式には対峙すると言った方が的確だろうか。

ギャグかと疑いたくなる豚の貯金箱をじっと見つめていたのだ。


夏「バイトなんかしなくたって、俺は貯金に溢れてるに違いねぇ。陽次みたいに無駄遣いしねえし、流川みたいに無頓着な訳でもねぇ……俺は倹約家にして先を見据えられる男だからなっ!」


半ば自分に言い聞かせるようにして、トンカチを手に取ると、夏目はそのトンカチを振りかぶった。


夏「信じてるぜ、幸せ運ぶ“銭豚のジョニー”。」


キテレツな名前を呼びながら貯金箱を叩き割ったその瞬間、夏目の胸を踊らせるような期待から、胸を切り裂かれるような絶望に変わる。

割られた貯金箱の中身は、10円玉が三枚、50円玉が一枚、100円玉が二枚程しか無いのだ。


夏「……そんな訳はナイジェリア、探せば絶対にアルジェリア。」


もはや思考が停止しているのか、日曜午後17時半に始まる某大喜利番組の、黄色い落語家が言うようなギャグを口走る夏目。がさごそと音をたてて引き出しや漫画の裏表紙、果ては割れた貯金箱の裏などを調べる始末。

しかしどこを探しても金など出てくる訳もなく、自分の全財産が280円という現実を受け入れるのはそれから数分たった時だった。


夏「……あんまりだァァァァァァァ!!」


夏目の悲痛な叫びが、夜の町に響き渡る。後にこの叫びは、銭神の叫びとして夏目家の七不思議となった。


非情なる現実を受け入れた夜が明け、学校も終わった放課後。いつものように溜まり場に来ていた夏目だったが、もはや抜け殻状態であった。その異様な光景を目の当たりにした新開が、思わず突っ込む。


新「で、なっちゃんになにがあったの?俺がなに話してもアイツ、まるで右から左なんだよねぇ…」

銀「なんでもアキラがバイトしてるの知って、急に金が気になったらしくてよォ……貯金箱割ってみたんだとさ。」

流「したらアイツ、全財産が280円ぽっちしかなかったみてぇでさ。それからあの腑抜け様…」

夏「ジュース買ったから正式には180円な…………」


新開の質問に銀次と流川が答える。付け加えるように、夏目が残金を教えた。まるで声に力が入っておらず、どこか上の空な夏目に金次は堂々と言い放った。


金「無いならチンピラから巻き上げればいいじゃねえか?カタギからじゃねえし、街の浄化にもつながるべ。」

葛「いやァ、やってることはお前のほうがよっぽどのチンピラだよ……よくそれで捕まらずに来れたなお前?」


金次のビックリ発言に呆れたように、葛西がツッコミをいれる。バツが悪そうに頬をかきながら、金次はそっぽを向いてしまう始末。このままでは拉致があかないと頭を抱える最中、陽気な能天気が喫茶店に入ってきた。赤髪が目立つ、あの男である。


陽「いやァ、お前らあいかぁらず貧乏そうなツラしてんなあ?」

夏「び、貧乏だとコラァ!テメー、人が銭で悩んでるときに!!」
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ