その他×高
□仇×蝶
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とある城内の廊下、白髪の髷にぶよぶよとした老将軍がいつにも増して上機嫌に歩いている。
その理由は、長年求め続けた蝶が己の手中にようやく入ったからだ。
老将軍、徳川定々は20年以上も前からその蝶を手に入れようとしてきた。
安々と手に入れれたはずが大きな邪魔が入り、その蝶に命を狙われる程嫌われてしまっていた。
その蝶が、ようやく手に入ったのだ。
スパンッと目的の部屋の襖を勢いよく開け放つと、定々が選んだ上物の美しい着物に身を包んみ羽を縛られた蝶−高杉晋助がゆるりと目を向けた。
「…ククッ…アンタが定々公かィ?」
「高、杉…」
その高杉の一つ一つの動作があまりにも生目かしく定々の想像を超えている。
「なんと…美しい……20数年前に見て以来だが…これ程に…」
20数年前、定々は松田松陽なる男が幕府に仇なすことをしていると耳にし、その男が開いているという寺子屋を自らの目で見てみたいと偵察しに行った。
その際に幼き高杉を見かけたのだ。
その愛らしい姿に目を奪われ、定々は高杉を傍に置こうと考えた。
が、見事に松陽に邪魔をされた。
あの男も高杉を傍に置いていたかったのだろう。
そして、高杉もあの男の傍に居たがっていた。
ならばあの男を殺してしまえ−−−−
そうして、朧を使い松陽を殺したのだ。
しかし、それは間違いだった。
そのせいで愛らしい高杉は闇に捕らわれ定々を恨み復讐を誓ったのだ。
それは定々にとって誤算ではあったが、愛らしい高杉が妖艶さを帯びるきっかけにもなった。
彼の魅力はさらに増したのだ。
「…傍に寄ってもよいか?」
「……断ろうとてめぇは寄ってくんだろ」
敵に捕縛され、いいように着替えさせられてまでいるのになんと強気な…
だが、何故余裕な表情をしている?
そんなことは今はいい。
早くこの男をこの手で愛でたい…
「……見れば見るほど麗おしい男じゃのぉ…」
「………」
定々は高杉の傍らに腰を下ろすと彼の頬に手を滑らせた。
高杉は気にする様子もない。
「ククッ…将軍様がソッチの輩だったたァな」
「…ぬしのせいじゃ……20数年前、愛らしいお主を見てから儂はずっとお前だけを想ってきた」
「傾国太夫を道具程にしか思わなかった程か?」
「……そうじゃ…あれはただの穢らわしい遊女でしかなかろう。だが、お主は蝶のように美しく愛らしく遊女のような汚れ等ない」
「……どうだかなァ…俺ァ遊女よりひでぇぞ?(ククッ」
彼の頬を片手で包み込み親指で撫でる。
艶やかな肌は若々しく滑らかで、舐めれば溶けてしまいそうだ…
「ッ……」
そう思えば体勝手動いていく。
定々は高杉に顔を近づけその頬を舐めた。
まるで味わうかのように舐め、吸いつく。
その間も高杉はくすぐったそうにするだけで逃れようとはしない。
「…何故、逃げようとしない?」
「アンタ、20年以上も俺の事を想い続けてくれたんだろ?」
顔を離して目を合わせれば、艶めかしい瞳に囚われる。
「俺にはそれが嬉しくてよォ、わざわざ会いに来てやったんだぜ?」
誘惑するかのようにチロリと薄い唇から舌を覗かせる。
「先生を殺して俺に恨みを買われてる奴が俺を好いてるたァね(ケラケラ」
「お前を手に入れる為にあの男を殺させたのだ」
高杉の頬を包む手に力が篭る。
「お前は儂といた方が何不自由なく暮らせる、あの男よりも儂の方がお前を好いておる、お前を汚して良いのは儂一人だ…」
「……そんだ歪みジジイだな」
「……………」
「ッ!!?」
定々の言葉を聞き吹き出す高杉の髪を鷲掴み、敷かれている布団の上へ転ばせた。