銀高
□初恋愛
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「最悪だ…」
その日の帰り。
神威は神楽にたまには家に帰れと連れていかれ、沖田は土方に剣道部へと引きずられて行ってしまった。
外は雨になり、生憎傘を持ってきていない。
とりあえず沖田が終わるのを待とうと保健室で寝たのはいいが、見事に寝過ごした。
下駄箱には誰もいないし、沖田たち剣道部員たちもその他の部活の輩も皆帰ってしまった。
(仕方ねぇ、濡れて帰るか…)
「……高杉、?」
雨に打たれる覚悟をして外へ一歩踏み出した時、馴染みのない声が高杉を止めた。
「あ…?」
「あー…そういえば面と向かうのは初めてだな……おめーの担任の坂田銀八でーす」
「…知ってる」
やる気のなさそうに頭をガシガシ掻きながら言う銀八になんの用だと視線で訴える。
と、同時に昼間の会話を思い出す。
『もしかして、シンスケが疎ましくて消そうとしてるとか』
『もしかして、高杉さんを襲おうとしてるとか』
……………
無意識に視線の鋭さと警戒心が強くなるのを感じる。
「えーっと…傘、ねぇのか?」
「ねぇけどなんだ」
「俺のを貸してやりたいんだけど、俺も持ってなくてよ…」
「………」
「そのー…今日は車だからさ、送ってってやろうか……?」
「…………(警戒心MAX」
ジロジロと銀八の隅から隅まで見る高杉。
だが、その声色(間の抜けてる)からも表情(汗ダラダラ)からも視線の動き(泳いでる)からも、昼間に話していたことには当てはまらない。
それに雨に打たれて風邪を引くのは少々厄介だ。
「何もしねぇなら乗る」
「は!?おめぇは俺をなんだと思ってんの!?」
「………(無視」
「寒くねぇ?」
「ん……」
少しだけ警戒心を緩めたものの、スキを見せないかのように運転席の真後ろに座る高杉。
「そんなに警戒しなくてもさぁ…ほぼ初対面だよな、俺ら。なんでそんなに警戒してんの?」
「初対面だからだ、気にすんな」
「…そうですかぁ……」
警戒心という名の迫力に押されつつ、銀八はハンドルをきる。
「…高杉ってさ、なんで授業出ねぇんだ?」
「ただ単につまんねぇからだ。俺にはそろばんと先生だけ居ればそれ以外は必要ないし」
「そ、そろばん…?あぁ、そういえばいつも持ち歩いてるよな」
「……先生がくれたから…」
ぎゅっと、少しだけそろばんを握りしめる高杉。
「……いい先生なんだな」
「ったりめぇだ」
クスクスと笑う銀八に後ろから軽く蹴りを入れる。
「ぉ、おい、あぶねぇよ…」
「ふんっ…」
その後は、先生の話とか、サボって何をしてるかとか、HRくらいは顔を出せとか、そんなことを話している内に高杉の住むアパートに着いた。
「いいか?明日のHR待ってってから。絶対来いよ?来なかったら、その先生んトコに連絡してやるからなっ」
「っるせーな、わかったっつってんだろ。行きゃインだろ、行きゃぁよ」
その頃にはだいぶ二人は打ち解けたようだ。
「態度が気に食わねぇけど、まぁ明日から頼むわ」
「チッ、じゃあな……………ありがとよ(ボソッ」
「…どういたしまして」
それから二人は少しずつ校内でも言葉を交わすようになった。
まぁ大体は授業に出ろだとか嫌だとかの軽い言い合いだが、高杉は銀八に気を許すようになった。
そのせいか、今まで怯え近寄って来なかった3Zの生徒たちも高杉に声をかけるようになり、高杉が教室に行く頻度も高くなりつつあった。
が、やはり銀八がふとした時に目の端にいる。
そしてそれは後ろ姿か去りゆく姿。
疑問に思うとこはあったが、高杉はかなり銀八への警戒心を解いていたのでさして気にしなかった。
「高杉さん、最近ちゃんと教室に来ることが多くなりましたねぃ」
「あぁ…来ねぇと先生にチクるって脅迫されてんだよ……」
「センセイ…?」
「そろばんの、松陽先生」
あー、と納得する神威。
「へー…で、あれからどうなんでぃ?」
「は?何が?」
「銀八だヨ。あれから襲われたりしてない?」
「……普通にされてねぇけど」
「「ふーん」」
「なんだよ、そのつまんねぇような顔は」
チッと舌打ちをして立ち上がり屋上を出ていこうとする。
「どっか行くんですかぃ?」
「便所」
「いってらっしゃい〜」
ヒラヒラと後ろ手に手を振って出ていった。