坂高
□わるいこ
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「たつにぃ〜っ」
積み木遊びに飽きたのか、胡座をかいている膝の上で体を反転させ、読書をしているわしの腕をぐいぐいと引っ張る晋助。
「ちくと待ちとうせ…もう少し──」
丁度面白いところに差し掛かり目が離せない。
「たつま!つみき、あきたっ!」
あまりにも相手にさせないのでとうとう呼び捨てになったか…
「もうちくとだけじゃから、待ちとうせ」
むぅと可愛く不貞腐れる頭にぽんと手を乗せる。
その手をすり抜けて体によじ登って、わしの肩に乗り本を覗き込んできた。
「……なんのおはなし?」
「商いの面白いお話」
「………」
バシッと本が叩き落とされた。
床に落ちた本は綺麗にぱたんと閉じられ、何ページを読んでいたのかなどわからなくなってしまった。
「あぁぁぁあっ!何しとうすかっ、晋助っ!」
本当に面白いところだったから、本を拾い上げながら思わず怒鳴ってしまった。
「っ……」
ビクッと晋助が体を震わせたのも気付かず、本をぱらぱらと捲り読んでいたページを探す。
「何処じゃったかのぅ……」
「…………」
そっと膝の上から降りる晋助。
「晋助…?」
晋助の顔を見てしまったと思った。
今にも泣き出しそうではないか。
「ごめんなさぃ……おれ、わるいこ…」
「晋助、泣きとうすなっ!」
あわあわと頭を撫でる。
「悪い子はわしじゃよ、晋助のことば無視しとったきに…晋助が怒って当然じゃ」
本なんかほったらかして震える小さな体を抱き締める。
「すまんの、晋助…」
「おれも、ごめんなさい…」
小さな手でわしの服をぎゅっと掴む。
あぁ、そんな仕草が可愛いと心の中で悶えながら、しばらくの間そうしていた。
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