長い夢の魔法。

□3つ。
1ページ/1ページ



夢を見た。懐かしい夢を。


5年くらいだろうか?数字にしたら近く聞こえるのに、記憶をたどれば酷く遠くて所々霞んでしまっている。


キラキラと輝く瞳を持った黒髪の男の子。


鏡の前に座り、ブロンドの髪をブラシですきながら振り替えってみる。


それでもやっぱり、名前がどうしても思い出せない。


緩く癖がついた髪をハーフアップに深緑色のリボンで結う。


今日も一日、家の名に恥じぬ"お嬢様"を演じないといけない。


邸より言動の自由はあるものの、授業は真面目に受けなければ。


いつだって成績優秀な優等生でいなければならない。


制服に着替え、リボンと同色のローブに袖を通す。


そして大理石で囲まれた談話室を通過して生徒で賑わう大広間へ向かう。


「おはようございます」


「おはようレギュラス君今度のクィディッチ頑張ってくださいね」


ふわり、と14年間で培ってきた完璧なまでの愛想笑いを浮かべる。


「ありがとうございます」


人当たりのいい笑みを浮かべるレギュラスに手を振って大広間へ。


向かう途中、いろんな生徒やゴーストに朝の挨拶を交わされた。もちろん、スリザリン生徒だけではあるが。


そのたびに愛想笑いを浮かべるのは酷く疲れるものがあり、まだ一日は始まったばかりだと言うのに酷く疲れたような気がした。


やっとたどり着いたら大広間の、目立たない隅っこに腰かけていつものようにジャムをのせたパンとサラダに手を伸ばす。


「おはよう *** 」


「おはようミシェル」


すると私の隣へやってきたのはミシェル。半純血の品のいい女の子だ。


カボチャジュースを注ぎ入れたとき、バサバサ!!と何羽ものフクロウが手紙や小包を落としていく。


「カーター私はここよ…!」


空中を旋回していた愛鳥のカーターに向かって声をあげると、わたしの存在に気づいたカーターがすぐそばに舞い降りて手紙を落とした。


カーターも食べられるビスケットを一枚加えさせてやれば、バサリと羽ばたいてふくろう小屋へと戻っていく。


手紙を見れば、薔薇の模様がついた真っ赤な封蝋。


慎重に開けて、なかを確認すると予想通り母上からであった。


学校での生活がだらけていないかから始まり、勉強へとすすむ。


そして。


「婚、約者……っ!!?」


まだ14だというのに、許嫁ができる。いや…できたというべきだろうか…


私は手紙を破り捨てたい衝動を必死に押さえて制服のうちポケットへ手紙を滑り込ませた。


ホグワーツを卒業すればきっと、すぐに婚約者ができて好きでもない人と結婚させられる。


そう思ってた。けどこんなの、早すぎる。


「***もう婚約者できるの?」


「えぇ、まだ14なのに…」


ミシェルが一口サイズにちぎったロールパンを片手に目を見開いている。彼女の瞳はサファイヤのようなブルー。


「名家のお嬢様は大変なのね」


「その言い方やめてって言ったでしょ?」


「あはっ、ごめんごめん」


無邪気に笑うミシェル、そして呆れたようにため息をつくのはいつものことだった。


「それにしてもこの年で婚約者ねぇ…」


すると、お皿が割れるような音がした。ガシャーンッという不快な音。


「いやぁ…グリフィンドールはいいね楽しそうで」


どうやらミシェルの言うとおり、グリフィンドール寮の誰かがお皿を割ってしまったようだ。


「じゃあミシェルはなんでスリザリンに来たのよ」


「好きな色がスリザリンカラーだったのよ、だから組分け帽子に無理言ってスリザリンにしてもらった」


これでも半純血だから、ギリギリいれてもらえたのよ。


そういってパクリ、ロールパンを口にいれた。


「相変わらず自由人ね」


「えー?そうかなぁ…」


そういったきり、モグモグと朝食を食べることに集中しだした。


いいなぁ…と、彼女の横顔を見ながら心で呟いてみた。


そんなとき、とある男子生徒が名家の封蝋がついた手紙をビリビリに破り捨て大広間を出ていったことを私は気づかなかった。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ