さぁ 呪文と共に杖を振ろう
□まどろっこしい恋
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あぁ、今日も綺麗だな。
大広間で朝食を食べているとき、レイブンクローのテーブルで紅茶を飲みながら難しそうな本を読む女の子がいた。
綺麗なストレートの黒髪を片方耳にかけて、時おりページをめくる指は白くしなやかだ。
「おいリーマス!」
「えっ、あ、なに?チョコレートならあげないからね?」
「ダメだリーマスの奴全然聞いてねぇ…」
呆れたような、諦めたような目はもう何回目だろう。
「リーマスどうしたの…?」
「ピーター!それは愚問だよ!彼は鷲寮のあの子にお熱さ!!」
「ジェームズ……?なに大声で叫んでるの?消されたい?この僕に」
ニッコリ、満面の笑みを浮かべれば青ざめた顔をする、もし、万が一彼女にバレたらどうしてくれるんだ。
「でもしゃべったことないんだろ?」
ムシャムシャ、朝からよくチキンなんて食べれるよと思いながらコクりと頷いた。
そう、レイブンクローとグリフィンドールは絶望的なまでに合同授業が少ない。
それに用もないのに見知らぬ他寮の生徒に話しかけられたら警戒されるし気味悪がられるだろう。
「図書室とかで話しかければいんじゃねーの?その本貸してくれないかって、レポート書くときにでも」
「シリウス!なんていいアイディアなんだい!さぁリーマス今日にでも話しか……」
「無理。却下。」
「なら悪戯にでも巻き込むか?その方が手っ取り早い」
「根本的に却下。」
忘れたのかい?僕は…―
そこで言葉を区切った。ピーターが気遣わしげに僕を見ている。
「リーマス!君はとんだ大馬鹿者だね!!」
ガタン!と騒がしく音をたててジェームズが席をたつ。
「そんなことであの子を諦めるのかい?!」
「そんなことじゃない!ジェームズにはわからないよ!」
僕の気持ちなんて、わからない。
人狼であることがどれだけ惨めなのか、普通の人間である君達にはわからないよ。
デザートのチョコレートケーキを残したまま、僕は大広間を飛び出した。
わからないよ。ジェームズにもシリウスにもピーターにも。
大広間から離れて、人通りの少ない廊下の壁に背中を預けて息を整えた。
取り乱しちゃったりして、カッコ悪い。
「あの」
すると、レイブンクローの女子生徒が僕に話しかけた。
「あ、え……?」
さっきまで大広間にいた、あの女の子だった。
近くで見れば、綺麗な黒髪だとか通った鼻筋だとかがはっきりとわかって少し焦る。
「これ」
そして、手渡してきたのはチョコレート。
「仕掛人がね、貴方に悪いことしたって言ってたの。あとデザートのチョコレートケーキも残していったって
そしたらね、私に気づいた黒髪の人がねこれ届けてくれないかって。
図書室辺りにいるっていうからね、ちょうど図書室に用もあるし…」
「え、と…そうなんだ…ありがとう」
「あのね、えっと、その、早く仲直りしてね」
僕はうまく笑えているだろうか。
余計なことを、と思いながらも心の片隅では喜んでいる僕がいる。
「ねぇ」
「なんだい?」
「なにか、大きな問題抱え込んでるみたいだね。
視野を狭めて、固定観念から抜け出せなくなってちゃ、問題解決は遠退いちゃうよ」
ドキリ、と心臓が騒ぐ。心がざわつく。
この子はどこまで知っているのだろうか、どこまで察しているのか。
今までほとんど接点がなかった子が、僕の本性を見抜けるとは思えない。
「あなたは、なにを、どうして悩んでいるのかな?」
それだけいって微笑むと、図書室に向かって長い廊下を歩いていく。
なにを?あの子と仲良くなれないことを。
どうして?僕が人じゃないから。
なぜ、人じゃないといけないのか?
人じゃない僕は、彼女に忌み嫌われることを恐れているだけじゃないのか?
「ねぇ!待って!!」
クルリと振り向いた君は、ニコリと笑って
「解決した?」
そう言った。黒髪が、彼女の動きに合わせて波立っている。
「お陰様で、ね……それで、その
もしよければ、友達になってほしいんだ
こんな僕だけど」
そういって、自嘲気味に微笑めば彼女はいいよと手を差し出した。
「私は***・***」
「僕は、リーマス・J・ルーピン。」
「よろしくね」
「こっちこそ」
とりあえず、友達から始めようか。
僕の恋は進んだばかり