壁の外、あなたと共に。
□人類最強の力で
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〈私が引き付けます、そのうちに〉
それだけ言ってガスをふかし、奇行種の群れへと突っ走っていった。
それからもう、アイツは帰ってきていない。
囮になったら最後、生きて帰れる人材など無に等しい。
奇行種の群れならばなおさらだ。
「……くそっ!」
ガンッ、と机を蹴り飛ばしても沸き上がる感情は収まるどころかせりあがってくる。
もう、帰ってはこない。
だが、遺体無き死をあっさり受け入れられるほど器はでかくない。
こんなんなら玉砕覚悟で抱き締めておけば良かった。らしくもねぇ言葉でもかけてやればよかった。
後悔ばかりで、さらに苛立つ。
「兵長、物に当たっちゃダメですよ、もう。足グセ悪いんだから」
「っ!」
突然降ってきた声は聞きなれたそれで、反応せずにはいられない。
「ソフィア・ジャネット、ただいま帰還しました!」
バッ、と公に心臓を捧げるもそんなの構わず抱き寄せた。
「チッ…、おっせぇ…!」
「ちょ、潔癖症でしょ兵長!汚れますよ…っ!」
「うるせぇ…!」
生意気な口を利くそれをふさいで、絞め殺すほど抱き寄せてやった。
「へ、ちょ!ギブ!ギブギブギブ!」
し、死ぬ…!今度こそ死ぬ…!と言い出したところで離してやった。死なれたら困るから仕方なくな。
「ケガはねぇのか」
「普通それ先ですよね、ないですけど」
「……そうか、よく、戻ってきてくれたな」
珍しいですね、どうしたんですか?と問いかけてきた生意気な口を、またふさいでやった。