狼さんと私。
□狼さんの涙。
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ここ2週間は最悪だ。
「##NAME1##…」
いつもより酷い傷が痛む。
医務室の天井に向かって手を伸ばせば包帯が巻かれた腕が視界に映る
悪いのは、あの男だ。
全部シリウスに聞いた。彼女は今全く元気がない状態であの男に縛られ洗脳されている。
近いうちにあの男に思い知らせてやらないと…
伸ばしていた手を爪が食い込むくらいに握りしめて不敵に笑う。
僕に敵うやつなんか、いない。
どうやって思い知らせてやろうか、***を奪った、そして傷付けたその報いを…
冷たい床に足をつけた。ただそれだけであちこちが痛みに悲鳴をあげ眉をひそめる。
立ち上がり、マダムがいないうちに彼女へ会いに行こうと一歩踏み出す。
じわりと巻いていた包帯に血が滲む。貧血なのかぐらりと頭が揺れるような感覚に陥って白い壁にに手をついた。
すると扉が開いた。カチャリと静かに。
黄色のローブが視界にうつって、今まで恋い焦がれていた人が僕の前に
「リーマス…!ダメだよ動いちゃ…」
そして出会った頃と似たように僕の腕を優しく、極力痛まないように肩に回してベッドへ。
「***…どうして……」
2週間前と変わらない笑みを浮かべて、彼女ポケットからチョコレートを取り出す。
「ただ逆らってひどい目にあうのが怖かっただけみたい」
少し溶けたチョコレートを差し出されて手に取る。小さな一口サイズのチョコレートだ。
「食べて。元気が出るよ」
言われたままに包みをはずし口に含む。
すると、魔法にかかったようにあの男への黒い感情だとか不安定だった心だとかが落ち着いた気がした。これはなんて魔法だろう。
「ね?」
「そうだね…」
頬が緩む。今彼女は僕の目の前にいる、ただそれだけで。
懐かしいような早い鼓動だとか、穏やかな気分だとか…これにあえて名前をつけるのなら恋だろう、と。まるで他人事のように。
「これはどこのチョコレートなんだい?」
「ハニーデュークスのチョコレート」
「今度、教えてくれる?」
僕とホグズミートに、なんて淡い期待を抱いて曖昧に問えば。
「もちろん、次のホグズミートは一緒に行こう?」
いつもの優しい笑みで僕に微笑む。楽しみだと呟いて。
愛しい彼女にに、僕の傷付いた手は触れられなくてグッと手を握りしめる。
「傷、痛む…?大丈夫?」
「仕方ないよ…僕は狼なんだから…」
「そんなことない、立派な魔法使いだよ、ね?」
***の傷ひとつない手が、僕の握りしめた手を包む。
ヒヤリと冷たい、僕よりも小さな手。
暖かい笑みが僕に向けられる。作り笑いなんかじゃない、優しい表情。
愛が涙となって溢れて止まらない。好きだよ、と心で何度も何度も呟いた。
それでも、僕はまだ君に想いを伝える勇気がないから。
「ありがとう。」
震える声で、ありったけの愛を含ませた5文字を繰り返した。