狼さんと私。

□狼さんと笑顔。
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「みーつーけた。」


翌日の土曜日。つまるところ休日である。


私は10時くらいまで眠っていたわけだが、起きても朝食の時間はとうにすぎている。


仕方なく今日も約2時間、昼食までの時間を潰すために図書室に来ていたわけで、図書室の奥の方に席を陣取っていたにも関わらず彼は私を見つけ出した。


ここなら誰にも見つからずに趣味に没頭できるし、少し騒いでもマダムピンスには見つからない。それなのに彼は私を見つけ出した。


「寝癖、ついてる」


私が本を開いたまま目を見開いて固まっているのにもかかわらず、彼は私の寝癖に手を伸ばし触れる。相変わらず手はヒンヤリと冷たくて、その冷たさが私を現実に引き戻す。


「なんでここが」


最近知り合ったばかりのあなたが私のお気に入り場所を知っていると言うのか。あなたはまだ、私の名前さえ知らないはずなのに。


「……なんでだろうね?」


クスリと笑い、答えをぼかして誤魔化し髪に指を通す。


「ひ…っ」


そのまま首筋をなぞり、髪を後ろに払ってまた触れた。ひんやりとした手がくすぐったい。


「ここに噛みついたら、きっと……」


言葉の続きはなかった。ただ遠くをみるかのように首筋を見詰めなぞっている。


「ねぇ、私達自己紹介がまだだって、気づいてる?」


「必要ないよ。僕は君のことを知っているし、君は僕のことを知っているでしょう?

違う?***」


「……なんで私の名前を知っているのかが知りたいけど…そうみたいね

ルーピン。」


いきなり名前呼びなんてそんなことはできない。私はルーピンを強調するように呼ぶと本人はクスクスと笑いだした。


「僕にそんな態度とる人なんてそうそういない。

みんな僕に噛まれるのが怖いんだ。」


そういってまた含み笑い。どれもこれも彼の笑みは作り物のように瞳の奥が読み取れずどこか遠くを見ているようだった。


何を見てるの?なんてきっと彼にしかわからない世界が広がってるはず、聞いてもわかるわけがない。だから聞くのをやめた。


私は視線を彼から本に戻す、彼は私に触れていた手を椅子に。


カタン、と物音をたてて隣に座ると本を取り上げられた。本当に勝手な人である。私はもう一冊の本を手に取り表紙を眺めて一ページ目を開いた。


「***、君だけは違った。怖れずに接してくれた

これがどれだけ僕を救ったか、君にはわかるかい?」


「わかりかねるわね。私はただ人助けをしただけ。

そうでしょう?」


問い掛け、視線を彼に向けると。息を飲む。


君は、僕を人扱いしてくれるんだね。


その言葉を聞いたとき、そういった彼の表情を見たとき。


なぜかとても、泣きたくなった。


壊れそうな笑みで彼は呟いたのだ。

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