夢.短編

□秋のはじまりに
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高校生になって、叔父の経営するコンビニでバイトを始めた。

人出がないから少しだけ手伝ってくれ、と叔父に頼まれたのもあるし、おこずかいが欲しかったのもある。


最初は本当にそれだけだったのに、今の私にはバイトが1番の楽しみになってしまっている…



「ありがとうございました〜」

土曜日の午後4時。
バイトの終了時間まで後1時間。


夏の暑さも和らぎ、夕方はかなり過ごしやすくなってきた秋のはじまりは、外の風も気持ち良さそうだ。

ヒグラシの鳴き声が響いている。




今日はもう来ないのかな…
でも、いつかの土曜日もこのくらいの時間だったよな…

そう思いながら、チラチラと入口の方を見てしまう。







そう…

私は時々このコンビニに買い物に来る人が気になって仕方がないのだ…

彼はとても背が高く、初めて見た時は本当にびっくりした


きっと部活帰りなのだろう。学ランに大きなスポーツバッグを肩に下げている。バッグにBasketballと書いてあるから、きっとバスケ部だ。背もすごく高いし…


この近くの高校で学ランといえば秀徳高校しかないし、バスケ部もすごく強いと聞いた事がある。


気になるのは、彼がいつも、普通の人ならあまり持ち歩かないようなものを何かしら持っていること。

そして、いつも必ずおしるこを買うということだった…






5時まであと10分…
今日は会えないかな…残念…

お客さんもいないし、一緒にバイトをしているおばさんにレジを頼み、陳列棚の整理に向かう。

帰り間際に整理するのは私の仕事だ。


チロチロチロ〜ン

「いらっしゃいませ〜。」

入店音がして反射的に振り向くと、入口には1番奥の棚からも見える背の高い彼の姿が見えた。


あ、来た…

「あ〜今日はさみぃ〜な。」

今日はいつも一緒にいる前髪が長めの賑やかな人と2人だけだ。
たしか高尾…って呼ばれてた。

たまに背の高い人達と5〜6人で来る事もあるけど、だいたいはこの人と2人だから仲良いんだろうな…

彼は、今日はカエルの置物を持っている。




「真ちゃん、肉まん食いたくね?」

「いらないのだよ。」

どうしよう…レジ戻ったほうがいいかな…で、でも、まだ2人だけだしいいかな…

棚の整理にいれば、いつもより彼の近くにいれる。

声も聞ける…

「俺、肉まんにしよっと。今年初肉まんだぜ〜。」

“高尾くん”がお菓子売り場を見ながら独り言言ってるが、「真ちゃん」は黙って飲み物の棚をガラス越しに見つめている。

真、ちゃん…か…
真也くん?真二くん?真之介くん?
なんて…名前なんだろう…


棚を整理する手はすっかり止まり、私の意識は「真ちゃん」に向かっていた…




「お〜い、真ちゃん、どったの?」

「ない…」

「え?」

え?

「ないのだよ…。この辺のコンビニで唯一ここだけに、夏も“冷しおしるこ”があったのに…」





あ…
最後の、売れちゃってた⁈

ど、どうしよう…

「ありゃ〜、仕方ねぇじゃん、今日は諦めようぜぇ。」

“高尾くん”がアッサリ言ってるけど、「真ちゃん」はかなりショックらしく呆然としている…


私は思わず彼の前に行ってしまっていた。

「あ、あの!」

「む…」

う、顔が、怒ってる…

「あの、“冷しおしるこ”は夏期限定なんです。来週月曜日からは、ホットドリンクに温かいおしるこが出ますので…。あの、本当にすみません。」

そう言って頭を下げる。

「………。」

「だってよ、真ちゃん。んじゃ〜来週楽しみにしてよ〜ぜ。」

何も言わない「真ちゃん」に変わって、“高尾くん”が笑顔で答えてくれる。


「…あ、ああ。」

あ、やっぱりおしるこ飲みたかったのかな…悪かったな…

まだ、呆然と私を見ている「真ちゃん」の顔は晴れない。





あ、と私はあるものを思い出した。

「あ、あの少し待っていてください。」

そう言って、デザート売場からあるものをとってきた。

「これ、新製品なんです。レンジでチンするだけで、本格的なお餅入りのおしるこが食べれるんです。あの…こちらじゃダメですか…?」



私が差し出したのは、カップタイプのデザートのおしるこだった。

今度は2人とも、びっくりした顔で私を見つめている。



「あ…やっぱり…ドリンクタイプが良かったですか?」


「あ、だってさ。どうすんの?真ちゃん。」

先に我に返った“高尾くん”が、なんだか嬉しそうに彼の肩を叩いている。



「いや、それをもらおう。」

それまで黙っていた「真ちゃん」が私の手のカップおしるこを受け取ってくれる。

「良かったです!来週からは温かいおしるこも飲めますね!」

私は彼が受け取ってくれたのが嬉しくて、思わず彼を見上げながら笑顔で言う。

「あ、ああ。」

戸惑いながらも返事してくれる彼と、何故か笑いをこらえるように彼の肩をバシバシ叩いている“高尾くん”。

「いや〜、良かったじゃん、真ちゃん。あれ?何か顔赤いよ(笑)」


「あ、赤くなどないのだよ!」

そう言って2人はレジに向かって歩いていく。

と、途中で「真ちゃん」が立ち止まり振り向いた。

「ありがとう。」


わ…
表情は無表情ながらも声はすごく優しくて…。

「は、い…」

私は彼の広くて大きな背中を見つめながら、話が出来た幸せを噛み締めていた…








真ちゃんとの恋はなかなか進展しなさそう…
でも、そこがいい…

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